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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「あなたは自分の力に気づいていないだけだ。鹿沼さんですら、あなたの笑顔に救われてきたんだ。過去がどうであっても、あなたは現在にもっと自信を持っていい。そこにはあなたなりの、表に見せない努力があったはずだから」

「………」

「あなたが作る会社なら、今よりもっと楽しいと思う。楽しい会社に勤めさせて欲しい。こうやって、危機には一丸となれるような」

「そのために……、お前も協力してくれるか?」

「勿論。あなたがトップなら喜んで」

「俺が嫌じゃねぇ?」

「嫌じゃないです。俺も、あなたを信頼しているんだと思います」

「思いますってなんだよ、思いますって。断定しろよ、そこで考えるなよ」

 聞こえるけれど理解出来ない声は、あたしをさらに眠りの底に沈めた。





 ***


 ブルームーン前日。

 不思議と満月の影響が身体に出てこない。

 二週間前の満月の時は、朱羽に会って心身が乱れていたというのに。バッグの中に入っている安定剤を使わずに午前十時になる。

 まだ社長は目覚めない。


「……結城、明日のブルームーンなんだけど」


 九時に出社させた木島くんに続き、新規開拓に出ようとする結城を引き留め、そしてあたしは頭を下げた。


「今まで結城にお願いしていたけど、これからはあたし、あたし……」

 
 唇が震え、言葉まで震撼する。


「朱羽にお願いしたいの!」


 びくりと結城の身体が震えたのがわかった。

 ああ、本当にあたしって自分勝手だ。

 こんなに長い間結城にお世話になっていて、突然に朱羽に乗り換えようとしている。しかも前もって約束なんかしておいてから。

 それでも、あたしは朱羽と居たい。

 朱羽は満月のあたしを、絶対嫌わないでいてくれるから。

 ……そう信じているから。


 垂らしたあたしの頭の上に、ぽんぽんと結城の手が跳ね、笑い声が聞こえた。


「香月にちゃんとお願いしろよ。駄目ならいつでも俺が相手してやる」


 顔を見せずに、結城は手を振りながら出ていった。

 意外にあっさりで、ぽかんとしながら結城の広い背中を見送っていると、


「よく、言えたね」


 柱の陰に、腕組をして壁に背を凭れさせるようにして朱羽が立っていた。
 
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