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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「……うん。どこでもいい、朱羽と一緒なら」

 朱羽は薄く笑いながら、あたしの頭を撫でた。

「明日夜六時に渉さんが沙紀さんと泊まりで来る予定だから、七時に帝王ホテルのラウンジで待ち合わせよう。明日俺、四時から渉さんに紹介されたところ二件回るから、丁度いい時間帯だ」

「あたしも営業行くのに」

「駄目だ!! 絶対駄目!!」

 朱羽が目をつり上げた。どうやら小林商事の一件は、朱羽の怒りの出来事になってしまったらしい。

「俺が行ってくる。だからあなたはいい子でここに居て」

「……わかった」

 朱羽は片手であたしの頬を撫でて、切なそうな目であたしを見る。

「明日、言いたいことが沢山あるんだ。……あなたが理解できるようになるまで言い続けるから、聞いて」

「……うん、あたしも聞いて貰いたいことがある」


 朱羽に好きだと言いたい。

 それだけをどうしても伝えたい。


「………」

「………」

 お互いのなにか言いたげな視線が絡み合う。

 朱羽はふっと笑って顔を傾け、あたしの唇にちゅっと啄むような軽いキスを寄越した。


「明日が待ち遠しい」


 そう言いながら、朱羽は綻んだような笑みを見せた。




 ***


 午前十一時――。


 朱羽は会社の様子が気になると、出社した。

 杏奈のプログラムの進捗が気になるらしい。


 衣里は社長に呼びかけている。

 衣里がひとりでいる時は、あたしは一緒にいることを遠慮していた。衣里にも社長だけに伝えたいことがあるだろう。

 
 
 午後二時――。

 専務が現れ、沙紀さんが車を出してくれて衣里とあたしは一度帰宅して、シャワーを浴びて着替えをとってきた。



 午後五時――。

 専務だけが帰り、結城が顔を出したが、社長はまだ目覚めない。

 少し落胆したような面持ちで、結城が本日最後の打ち合わせに行く。



 午後六時――。

 朱羽が、残る社員を全員引き連れて来た。皆が社長に呼びかけたおかげか、社長が手と瞼を三回ぴくぴくと動かした。



 午後八時――。

 結城と専務の帰りを待っていたかのように、社長がゆっくりと目を開く。



「よぅ」



 酸素呼吸器の下から、聞こえた声。


 全社員の前で社長が生還したのは奇跡のよう。

 ……あたし達は泣いて悦び、仲間に抱きついた。
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