この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「……うん。どこでもいい、朱羽と一緒なら」
朱羽は薄く笑いながら、あたしの頭を撫でた。
「明日夜六時に渉さんが沙紀さんと泊まりで来る予定だから、七時に帝王ホテルのラウンジで待ち合わせよう。明日俺、四時から渉さんに紹介されたところ二件回るから、丁度いい時間帯だ」
「あたしも営業行くのに」
「駄目だ!! 絶対駄目!!」
朱羽が目をつり上げた。どうやら小林商事の一件は、朱羽の怒りの出来事になってしまったらしい。
「俺が行ってくる。だからあなたはいい子でここに居て」
「……わかった」
朱羽は片手であたしの頬を撫でて、切なそうな目であたしを見る。
「明日、言いたいことが沢山あるんだ。……あなたが理解できるようになるまで言い続けるから、聞いて」
「……うん、あたしも聞いて貰いたいことがある」
朱羽に好きだと言いたい。
それだけをどうしても伝えたい。
「………」
「………」
お互いのなにか言いたげな視線が絡み合う。
朱羽はふっと笑って顔を傾け、あたしの唇にちゅっと啄むような軽いキスを寄越した。
「明日が待ち遠しい」
そう言いながら、朱羽は綻んだような笑みを見せた。
***
午前十一時――。
朱羽は会社の様子が気になると、出社した。
杏奈のプログラムの進捗が気になるらしい。
衣里は社長に呼びかけている。
衣里がひとりでいる時は、あたしは一緒にいることを遠慮していた。衣里にも社長だけに伝えたいことがあるだろう。
午後二時――。
専務が現れ、沙紀さんが車を出してくれて衣里とあたしは一度帰宅して、シャワーを浴びて着替えをとってきた。
午後五時――。
専務だけが帰り、結城が顔を出したが、社長はまだ目覚めない。
少し落胆したような面持ちで、結城が本日最後の打ち合わせに行く。
午後六時――。
朱羽が、残る社員を全員引き連れて来た。皆が社長に呼びかけたおかげか、社長が手と瞼を三回ぴくぴくと動かした。
午後八時――。
結城と専務の帰りを待っていたかのように、社長がゆっくりと目を開く。
「よぅ」
酸素呼吸器の下から、聞こえた声。
全社員の前で社長が生還したのは奇跡のよう。
……あたし達は泣いて悦び、仲間に抱きついた。