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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

 ***


 社長はしばらく人工呼吸器をつけていたせいなのか、発声するのに喉奥が痛いらしい。

 なにか喋ろうとするのだが、辛そうに眉間に皺を寄せるから、あたし達は無理して喋らせないように社長を寝かせたが、また目覚めないかもしれないという不安で、数時間おきに声をかけたりした。

 ちゃんと目覚めてくれる度に、胸に込み上げるものがある。

 その日は、社長が朝ちゃんと目覚めるところを確認してから仕事をしたいと、全員が病室に泊まった。

 多くの社員が社長の傍についていて、社長も寂しくなかっただろう。


 午前六時――。

 社長は身じろぎするようにして、声を漏らした。

「会社に行かなきゃ……皆が……頑張ってる……のに……」

 ガラガラ声で、ちょっとドスの利いたような恐ろしく低い声でそう言うと、また寝息をたてた。

 苦しいのは社長なのに、いつも飄々としてマイペースでありながら、社長はこうやって社員を労ってくれていたのだろうか。

 あたし達は社長がどんなに社員を愛してくれているのかわかり、絶対向島に負けるものかと一同声を揃える。

 
 社長が目覚めたからか、結城が一層強張った顔をしている。

 社長がいるのに、自分が社長になることをよしと思わないのだろう。感情論で言えばそうだ。だけど現実は社長の会社に危険が迫っている。

 結城が社長をやるとしても、忍月の重役を納得させないといけないのだ。これからが結城の大変なところ。

 それでも結城の気持ちも痛いほどわかる。

「陽菜」

 振り向けば、リビング室に居る衣里だった。

 衣里は自分の手帳を何枚も破いて、ボールペンを置いてみせる。

 ああ、わかったよ衣里。そうだね。

 あたしは衣里の元に行き、衣里と言葉を交わさないままに、結城に悪戯したマッキーで黙々とその沢山の紙に書いて行く。

 質問事項、一点。

『社長が会長職に、社長職に結城が就くとしたら反対か』
 
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