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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「鹿沼ちゃん」

 気づいたら杏奈が傍に来て、あたしをじっと見つめていた。

 杏奈は願掛けで、会社が落ち着くまでは、いつものふりふりの支度にかかっていた時間を、プログラム入力に捧げているらしい。

 だから今は、なんでそんなに身体の線を強調するかなというような服装だ。まあニットのワンピは確かにすぐ支度出来るかもしれないけどさ。

 極端から極端に走る杏奈だけれど、なんだかそれも慣れた。なりふり構わず、あたし達は働いているのだ。

 今は、ゴージャスな縦巻き髪の、ナイスバディ美人なお姉様という感じの杏奈、傍に居るあたしは杏奈の持っている人形みたいなものだろう。

「……なんか鹿沼ちゃん、パワーアップしたね」

「え?」

「今まで鹿沼ちゃん"自分のために"が少なくて、"皆のために"が多すぎていたけど、今は"自分のためにも皆を信じている"、そんな気がする。だから無敵だ。そう思わない、香月ちゃん」

 あたしの横に朱羽が立っていた。

「そうですね。無敵な気がします。なにがあっても乗り切れる……そう皆に思わせるのは、さすが鹿沼主任だと思います」

「だよねー、さすが鹿沼ちゃんだ」

「ちょ、褒めてもなにもあげませんからね!? 杏奈も!」

「鹿沼ちゃん。杏奈、香月ちゃんとプログラム完成させてきた。絶対絶対、これ武器になるから。だって杏奈と香月ちゃんフルパワーだもん。裏も表も考え込まれているからねー」

「ありがとう、杏奈……そして課長……」

 ふたりは微笑んでいた。

「鹿沼ちゃんはひとりじゃないよ。だからひとりで頑張りすぎないで。すっごいクマだよ、そうだ、はい」

 杏奈は自分の……タオル地の白いウサギの人形がついたエナメル地のピンクのバッグ(……なんでその格好にこれなんだよ)から、手のひらサイズの立方体を縦半分にしたような箱を取り出して、あたしに握らせた。
 
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