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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「これは杏奈が使ってる美容クリーム。これをつけると一時間もしないでお肌ぴーんだから、真下ちゃんと使ってね。杏奈買ったばかりの新品持ってきたんだぞ?」

「あ、杏奈……この箱と中身、ブランド違うよね?」

「同じだよ」

 杏奈が口にした、箱に書いてあるブランド名は、よく雑誌に載っている何万円もする高級品だ。間違ってもあたしのような平凡OLが手を出せないセレブの愛用品。

「杏奈、ここの使ってるの!?」

「そう。杏奈の若さの秘訣!!」

 ……そうか、三十路に見えないその若々しさは、化粧品のエキスだったのか。杏奈給料いいのかな、いいなあ技術系。





 午前八時――。

 社長も目覚めたが、寝たきりのまま話せる元気はないようだ。それでも顔の表情がわかるようになり、安心して社員は出て行った。

 衣里も安心して、結城と仕事に出るようだ。

「いい? あんたが社長になっても、あんたに足りない分を私達が結果としてあんたの出世祝いにしないといけないの! あんたもぐだぐだ悩むのなら、まず仕事取って来なさいよ!」

「なに!? 俺の祝いを俺が取れって? お前なあ……」

 賑やかに喧嘩して出て行ったふたりを、社長は優しげな顔で見ている。

 朱羽は専務と話をしていて、沙紀さんは先に出たようだ。

「社長、あたし皆に言っちゃいました。今がそのタイミングだと思ったので。アンケートとったら示し合わせたように、皆同じ事書いてますよ。社長が会長、結城を社長に賛成って。よかったですね、結城は人望があるから、少なくとも社内では反対があるわけないです。あとは結城次第です。まあ社長も、結城からそこで色々聞いていたかもしれませんけど」

 社長は気怠そうに、あたしの手を掴んだ。

「ありがとな」

 ガスガスとした声だったけれど、そう言われた気がした。

「どういたしまして。社長も出世できそうでよかったですね」

 そう笑うと、社長は目を細ませる。

「社長、あたし過去を……思い出しました。とはいえ、大半が聞いた話と、映像のような記憶ですけれど」

 あたしの手を掴む社長の手が、くっと力が入った。

 その目に浮かぶのは驚愕を通り越した悲哀。

 大丈夫か、と言っているようだ。
 
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