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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「あたしは大丈夫です。ええ、過去は過去として、前を向いて歩いていきます。つまずいて転ぶかもしれないけど、歩き疲れて立ち止まるかもしれないけど、あたしはひとりじゃないから。それがよくわかったんです」
「………」
「結城と一緒に、助けて下さってありがとうございました。あたしの心が壊れずいるのは、社長と結城のおかげです。今までなにも言わず、見守って下さってありがとうございました!」
深く頭を下げると、社長の手がふらふらとあがり、あたしの頭の上に落ちた。
……痛い。だけど別に頭を叩いたわけではなく、軽くぽんと勇気づけているつもりのようだから我慢した。
「睦月を……許してくれるか……」
社長が言いづらそうに顔を歪め、嗄れた声を出す。
「睦月はずっと後悔してた……」
「はい、許すなんて神様みたいで偉そうですけれど、結城が全力であたしを守ってくれていたのはわかっています。それで救われていたことも。結城は自分のせいだと言ったけれど、今のあたしには早かれ遅かれ訪れていた出来事のように思えるんです。だから結城のせいじゃない」
「そうか。ありがとう。それで睦月は、救われた……。やっと……。あいつはお前に言えないくらい、苦しんでいたから」
「……っ」
社長は静かに目を閉じた。
「俺にはな、子供を作る力がなくても……、睦月という息子と……お前と衣里という娘がいる。香月も他の社員も、皆……俺の子供だ」
薄く開かれた目から、溢れるようにして滴が垂直に滴り落ちた。
「お前らには、笑って欲しい……」
切なる声に、あたしの目からも涙が零れる。
「社長のおかげで、あたし達は笑っていられます」
「そうか……」
嬉しそうに目が細められた。
「あたしの父親は最低でしたけれど。だけど、あたしには……月代雅という父親が居たからいいんです。社長の方があたしの父親です。……親孝行、させて下さいね。だから長生きして下さい。生きるのを諦めないで」
泣きながらあたしが笑うと、社長も口元をつり上げる。
「俺は、まだまだ死なないぞ」
「その調子です。社長は死神にも嫌われたんだから、こっちに居るしかないんです。老後のお世話、あたししてあげますから! ちゃんとおむつ換えてあげますよ」
「ジジイ扱い、するな」
あたしと社長は声を立てて笑った。