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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

 午前十一時――。

 なにかと忙しく感じるのは、今日がブルームーンだからなのか。

 やけに時計ばかり見ている気がする。それはきっとあたしだけだろうけれど。

 朱羽が会社からの電話をしている間、会社に戻る支度を既に済ませた専務があたしを呼び止めて言った。

「カバ。六時までは俺と沙紀が交互にくる。朱羽も夕方から居なくなるが、今日はお前も朱羽も家に戻って寝ろよ。酷っでぇ顔してるから」

 専務があたしの顔を見てそんなことを言う。

「そ、そこまで酷いんですか!?」

 あたしは思わず両手で自分の頬を触った。

「ああ、それにお前泣いてたんだろ? 瞼も顔もぱんぱんだぞ」

「えええええ!?」


 今日ブルームーンだというのに。

 今日は特別な日だというのに。


「沙紀から差し入れ。この美容液を浸して、これでパックすればいいんだと。俺はよくわからねぇから、意味わからなかったら沙紀に聞いてくれ」

「意味はわかりますけど、これ……沙紀さんが買って来たんですか!?」

「ああ、沙紀の化粧品らしいけど。なんかおかしいのか?」

「ひぇぇぇぇ」

 それは杏奈がくれた美容クリームのメーカーと同じだった。

 考えれば、沙紀さんのお肌もぷりっぷりだ。

 それに比べたら老化なのか劣化なのか、あたしの肌も顔も酷いじゃないか。

「お待たせしました」

「おう、朱羽」

 朱羽に顔を見られる前に退散しようとしたのに、笑う専務があたしの手を掴んで言う。

「ちょっとこいつの顔見てみろ」

「いいですって! こないで、こないでよ、朱羽!!」

「……なんですか、一体」

「来ないで……来るな、来るなったら!!」

 朱羽が嫌がるあたしの顔を朱羽の正面に向けた。
 
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