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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「別に、なにも。それより渉さん、その手を離して下さい。なんなんですか」
すると専務がひぃひぃ腹を抱えて笑い出した。
「ああそうだものな、朱羽はそうだよな。カバがどんなカバだろうと、カバでありさえすればいいものな。そんなことより、俺が触っている方が嫌だものな。お前なんで俺にはそうで、結城は許してるんだよ、ぶはっはっは」
黒色のウェーブがかかった髪先が、専務の笑いに揺れる。
また朱羽のスマホが鳴った。
「すみません、またちょっと失礼します」
そりゃあそうだ。忙しいよ、今は。あたしなんてのほほんとしちゃっているけれど、本来あたしがしないといけないことだったのでは?
「なあ、ぱんぱん顔のカバ」
「黙って下さい。もうわかりましたから。あたしはぶちゃいくですし」
両頬を両手で覆い、目だけで威嚇する。
「いや、お前可愛くなったんじゃね?」
「なにも出ませんから!」
「朱羽を名前で呼ぶようになったのは、どんな心境の変化だ、ん?」
どっきりした。
何回か専務の前で、朱羽を名前で呼んでいたことを思い出した。
「お前、朱羽のことが好きなのか?」
揶揄ではなく、真剣な目がこちらを向いている。
これは逃してくれそうもない目だ。
だけどまあ、専務ならいいか。最中に呼び出してしまったし、朱羽の家族みたいなひとだし。
あたしは諦観したようにひと呼吸してから、頬から手を外して深く頷いて、専務を見た。
「はい、好きです。まだ本人には伝えてませんけど」
自分でも驚くほどの、落ち着いた声だった。
「人間としてじゃねぇぞ。恋愛の意味で」
「はい。どちらの意味でも、好きです」
「朱羽とセックスしたいという意味だぞ?」
「はい、朱羽とセ……なに言わせるんですか!」
言ったら顔が真っ赤になった。そんなあたしを見て専務はまた大笑い。
「ぶはっはっは! 赤カバ、なんだよその赤カバ!」
専務はあたしの頭を手で抱えるようにして、あたしの髪をぐしゃぐしゃにしてきた。