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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「女の告白なんて慣れている俺ですら、乙女ぶった赤カバ相手に、ちょっぴりくらっと来たぞ? カバ相手なのによぉ」

「カバカバ、あたしは……っ」

「そうか、お前そこまで朱羽が好きなのか。そうか、そうかっ!!」

「ちょ、髪っ」

 嬉しそうな笑い声。あたしは手ぐしで髪を整えたが、またくしゃくしゃされてしまった。

 その時聞こえたんだ。

「いや、こんなにめでたい日はないな、あいつの誕生日に」

 驚きの一声が。


「……は? 誕生日?」

「なんだ、聞いてねぇのか?」

「聞いてませんよ、なんですかそれ!」

 あたしプレゼント用意していないのに。

「ああ、あいつはプレゼントっていうの嫌がるから、お前の身ひとつでいい。そうすりゃ朱羽が悦んで食うだろう」

「なんで食らわれること前提なんですか!」

「――朱羽を頼むぞ、陽菜」

 真剣な声で、しかも名前で呼ばれて驚いて、頭を手で挟まれたままの状態で、まじまじと専務の顔を見てしまう。

「暗闇の中、お前だけがあいつの中の光なんだ」

「なんですか、それ」

「なにがあっても、あいつの味方でいてくれ」

「一体なに……」


 カツカツカツ。

 忙しい靴音と共に、突然あたしの視界は真っ暗になった。

 いい匂い。これは……。

「沙紀さんに言いつけますよ!?」

 朱羽の腕の中で、胸に押しつけられているようだ。

「そりゃまずいわ。あはははは。カバ、ちゃんと言えよ?」

「専務に言われなくても……」

「仲がいいね」

 言葉は不気味な笑みを湛える朱羽によって遮られる。その間、専務は手を振りコートの裾を翻し出ていってしまう。

「渉さんとなにを?」


 言えるわけがない。

 朱羽が好きだと言っていたなんて。

「な に を?」

 ひとつずつ区切って聞かないでよ!

「今日、朱羽の誕生日だったの!?」

 慌てて話を変えると、朱羽は嫌そうな顔をした。

「……渉さんですか」

「本当に!?」

「ええ。まあ」

「あたしプレゼント用意してない」

「いりませんよ。あなたが俺と一緒に居てくれるんでしょう? それで……って、なんで離れる?」

「なんでって、近づいてくるから……」

 朱羽が口を尖らせる。

「俺に触りたいって言ったの嘘?」

 顔の位置は動かず、瞳だけがあたしに向いた。
 
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