この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「女の告白なんて慣れている俺ですら、乙女ぶった赤カバ相手に、ちょっぴりくらっと来たぞ? カバ相手なのによぉ」
「カバカバ、あたしは……っ」
「そうか、お前そこまで朱羽が好きなのか。そうか、そうかっ!!」
「ちょ、髪っ」
嬉しそうな笑い声。あたしは手ぐしで髪を整えたが、またくしゃくしゃされてしまった。
その時聞こえたんだ。
「いや、こんなにめでたい日はないな、あいつの誕生日に」
驚きの一声が。
「……は? 誕生日?」
「なんだ、聞いてねぇのか?」
「聞いてませんよ、なんですかそれ!」
あたしプレゼント用意していないのに。
「ああ、あいつはプレゼントっていうの嫌がるから、お前の身ひとつでいい。そうすりゃ朱羽が悦んで食うだろう」
「なんで食らわれること前提なんですか!」
「――朱羽を頼むぞ、陽菜」
真剣な声で、しかも名前で呼ばれて驚いて、頭を手で挟まれたままの状態で、まじまじと専務の顔を見てしまう。
「暗闇の中、お前だけがあいつの中の光なんだ」
「なんですか、それ」
「なにがあっても、あいつの味方でいてくれ」
「一体なに……」
カツカツカツ。
忙しい靴音と共に、突然あたしの視界は真っ暗になった。
いい匂い。これは……。
「沙紀さんに言いつけますよ!?」
朱羽の腕の中で、胸に押しつけられているようだ。
「そりゃまずいわ。あはははは。カバ、ちゃんと言えよ?」
「専務に言われなくても……」
「仲がいいね」
言葉は不気味な笑みを湛える朱羽によって遮られる。その間、専務は手を振りコートの裾を翻し出ていってしまう。
「渉さんとなにを?」
言えるわけがない。
朱羽が好きだと言っていたなんて。
「な に を?」
ひとつずつ区切って聞かないでよ!
「今日、朱羽の誕生日だったの!?」
慌てて話を変えると、朱羽は嫌そうな顔をした。
「……渉さんですか」
「本当に!?」
「ええ。まあ」
「あたしプレゼント用意してない」
「いりませんよ。あなたが俺と一緒に居てくれるんでしょう? それで……って、なんで離れる?」
「なんでって、近づいてくるから……」
朱羽が口を尖らせる。
「俺に触りたいって言ったの嘘?」
顔の位置は動かず、瞳だけがあたしに向いた。