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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「嘘のわけ……」

「だったらなにこの距離」

 あたしは朱羽からちょっと遠ざかっていた。だって顔見られたくないもん。ちょっとましにしてきたいもん。ちょっとだよ、ちょっと。

 だけど朱羽は離れたということがお気に召さないらしい。

「俺にお仕置きされたいの? それともブルームーンキャンセルする気? 結城さんに頼むつもりとか!? まさか渉さんなんてこと」

 自分で勝手に言ってて、語気が荒くなる。

「違う、それ皆違うから、ね! 落ち着こう……って、あたし、やっぱり落ち着きすぎているよなあ。午後に一気にくるんだろうか」

「それは、お前みたいに舞い上がってないと言いたいのか?」

「いや違うけど、え、舞い上がってるの?」

 すると朱羽の白い肌がうっすらと、艶めかしいほどに紅潮する。

「悪かったな」


 あら嫌だ、拗ねちゃった。

 ぷいと横を向く朱羽が可愛い。なにか怒濤に過ぎたここ数日が癒やされる。そうなんだ、舞い上がってくれてたのか。……だけどいつも通り鉄仮面だった気がするけれど。

「朱羽」

 顔を見ようとしたら、反対にぷいと顔を背ける。

「朱羽」

 何度も反対側にぷい。

「あたしもそわそわして時計ばかりみてた。それあたしだけだと思ってた」

 朱羽の顔がぴくっと動いて、こちらに顔が向く。

「じゃあなんで離れようとするんだよ。なんだよこの距離」

「いや、顔がね?」

「なに」

「専務に顔が酷いって言われて。杏奈と沙紀さんからも高い化粧品貸してくれたほどだから、ちょっとましになるまでは恥ずかしいなって」

 そう言って三秒もしないうちに腕を引かれて、朱羽の腕の中。

 さらには、ちゅっちゅと、廃れた顔面に恵みの雨のように唇が降り注ぐ。

「ちょ……」

「どこが酷いんだよ。こんなに可愛いのに」

 うわ、吐息交じりになにを言うんだよ、このひと。

「あなたが可愛いすぎるから、渉さんが構うんじゃないか。あのひと、本当に気に入らないと、個人的に喋らないんだし」

 言葉の合間にキス。いやキスの合間に言葉か。

「皆があなたを持っていこうとする。俺の誕生日に」

 ぎゅうと抱きしめて、不満げに言った。

「今夜、あなたは俺のものになるのに」

 ため息なんだろうけれど、悩ましい息遣いに身体が熱くなってしまう。
 
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