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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
***
午後一時――。
沙紀さんがあたしと朱羽の分のほかほかなお弁当を持ってきてくれた。
社長は点滴のみでまだ食事を取れない。社長の目の前に箸で掴んだ美味しそうなハンバーグを持っていき、食べたかったら早く治して下さいと言いながら、社長の視線を浴びたまま自分で食べる。
「見てろよ、カワウソ~」
「ふふふ」
ちょっと意地悪も愛情の裏返しだ。社長には意地と根性で、元気になって貰いたいのだ。
ご飯を食べ終えたら、沙紀さんに呼ばれてそのまま客間に連れられた。朱羽に社長の監督を申し渡した沙紀さんは、あたしの顔がパックをしたものではないことを指摘し、自分のバッグの中から拭き取るタイプのクレンジングであたしの顔から化粧の残骸を落とした後、美容液を浸したフェイスパックをあたしの顔に乗せた。あたしはただ唖然としたまま、ベッドに寝かされている。
「二十分、私とお話してようね。驚くくらいに肌細胞回復して、なんか顔が小さくなるから! これ本気!」
あたしもどこかの雑誌で見たことがある。救急的に使える魔法の化粧品だと。
「ご、ごめんね……こんな高価なものを」
「いいのよ。だって陽菜ちゃん、今日朱羽くんとお泊まりでしょ?」
「は!? な、なんで!?」
あたしは誰にも言っていない。もしかして朱羽!?
「だって朱羽くんの誕生日だし、陽菜ちゃん朱羽くんへ恋の自覚したんでしょう?」
「え、は!?」
「朱羽くんのこと好きなんでしょう? あ、恋愛の意味で」
どうやら出所は朱羽ではなく、専務のようだ。
しかし沙紀さんまで朱羽の誕生日を知っていたなんて。今日じゃなくてもうちょっと前に教えてくれればいいのに。
「専務ね? 専務が沙紀さんに言っちゃったんだね?」
「いいや、渉は関係がないわ。単純に、朱羽くんがいい男の顔をしてきたし、陽菜ちゃんが朱羽くんを見る目がびくつかなくなったから、そうなのかなって。朱羽くんちゃんと誕生日に陽菜ちゃん誘えたんだなって。……ふふふ、陽菜ちゃん、渉に言ったんだ? なになに? 朱羽くんが好きって?」
「わ、忘れてぇぇぇぇ」
赤く火照った顔は、冷たくて気持ちいいパックが隠してくれたから、本当によかった。