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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「いつから朱羽くんを意識し始めちゃったの?」
「虐めないでぇぇぇぇぇ」
寝転んだまま、手足をバタバタさせると沙紀さんが大笑いをする。
「ねぇ、一気に朱羽くんに落ちた? 気がついたら、自覚してたタイプ?」
「……うん。沙紀さんもそうだったんだ?」
「うん。渉って、朱羽くんのように女に対してクールじゃなくて、天性の女タラシなのね。身体の関係を持った女は数え切れないほど。今は全部女と切ってくれたけれど、初めて会った時はもう本当に酷くて、私にまで手を出そうとするから、よく説教したり胸ぐら掴んで投げ飛ばしてたのよ。私柔道黒帯だから」
「な、投げ飛ばしてたんだ?」
小さい沙紀さんが、がっしりとした体格の専務を投げ飛ばす様を想像して笑ってしまった。だけど、どう見ても沙紀さんにべた惚れの専務は、喜んで投げ飛ばされていたような気もする。
なんだ専務、沙紀さん限定でMだったのか。いいことを聞いた。
「最初はね、私忍月コーポレーションで経理より警備課の方に回して貰えないかって頼んだんだけれど、私が小さすぎたのと女は前例がないからと断られて。それで第二希望の経理になったの」
「へ、へぇ……」
警備課というのは、どうしても暴力的で穏やかなイメージがない。沙紀さんの外見からは、沙紀さんの方が守られる側にいる気がする。
「経理の時もね、渉に触られる度にバタンバタンと投げ飛ばしていたんだけれど、投げ飛ばすことが出来なくなった時にはもう、渉に恋をしていて。どうして有能であろうともあんな軽薄な男を好きになったんだろう、あんなのに堕ちるなんて末代までの恥だと思うのに、今でも理由がわからない」
専務、愛しの沙紀さんから散々ですね。
「陽菜ちゃんもそうじゃない? 恋に堕ちたら理由なんてなくなっちゃう。気がついていたら好きになっていた。そんなもんじゃない?」
「……かもしれない」
「でしょう!? 朱羽くんは渉とはまた違って、取り澄ましたような顔であまり感情を外に出したがらないし、女の子になんて近づこうともしない。忍月に居た時も、ん……クールというより」
「鉄仮面」
「そうそう、鉄仮面! あまりに女の子が怖いと泣いちゃうから、私と渉とで愛想笑いを覚えさせたわ」
ああ、凍えた笑みがそうなのか。