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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
***
高級化粧品効果でファンデの伸びもよく、沙紀さんに強要された朱羽の感想は。
「いつも通りです」
眼鏡のレンズがキラーンと光った。
そうか、朱羽の目には変化はなかったのか。そうちょっと落胆していたら、散々朱羽を「乙女心がわからない奴だ」と罵った沙紀さんがいなくなるタイミングを見計らったかのように、朱羽はいじけるあたしの耳に囁いた。
「あなただけに言いたいよ、綺麗だっていうのは」
耳から離れた朱羽はふっと口元で笑った。
「あなたはいつも綺麗だけど、俺のためにもっと綺麗にしようとしてくれたんだと……、そう自惚れてもいい?」
なんでそういうことをさらりと言っちゃうんだろう。
そういう風に聞かれたら、そういう顔で見つめられたら、うんと答えるしかないじゃないか。
あたしは沙紀さんから聞いた朱羽のうきうきに気づかなかったのが申し訳ない気がして、朱羽の袖を手で摘まんで、俯きながらぼそぼそと言う。
「今二時過ぎたからあと五時間だね。今日ね、本当にあたしも嬉しいの。……思い切り愛してね?」
返事がない。
せっかく言ったのに聞こえなかったのかしらと目だけで朱羽を見遣ると、朱羽は片手を顔にあてて天井を仰ぎ見ていた。
耳と首筋が真っ赤だ。
「俺、打ち合わせ中、にやにやしてたらどうするんだよ」
「にやにやしてるの?」
「当たり前だろ、そんな可愛いこと言われたら」
「可愛いかな。どこらへんだろう」
「突き詰めなくていいから。……それより、見た感じ平気そうだけれど、満月の影響は?」
「ちょっとむずむずというくらい。これだったらあたし意識持てるかもしれない。夜になってみないとちょっと断言は出来ないけど」
「……いいのに、狂ってくれても」
ぼそりと、声が落とされる。
「そしたら俺、ブレーキかけないですむ。こんなに煽られて、俺……」
「いいよ? ブレーキかけなくても。あたし思い切り激しくても「はい、黙ろうか」」
あたしの口を押さえた朱羽はさっきより真っ赤だ。
「ああくそっ、ちょっと頭冷やしてくる」
朱羽は少しだけよろけながら、病室から出て行った。
大胆なことを言うくせに、いやらしい言葉責めをしてくるくせに、朱羽の精神構造がよくわからない。
あたし、そんないやらしいこと言ってない……よね?