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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

~Eri Side~


 私のスマホが振動した。

 結城からの電話だ。なにか仕事でトラブったのだと思い慌てて出る。

「もしもし、どうした?」

 返答がなく、自動車のクラクションの音がする。

 まだ外にいるのだろうか。

「結城? 間違ったのなら、切るよ?」

 その時声が聞こえた。

『すまん、真下。なにか……怒ってて。なんでもいいから』

 泣いているように聞こえた。

『頼む。嫉妬で、おかしくなりそうなんだ』


 私は陽菜に聞いていた。

――衣里、ごめん。どうしても今夜、朱羽と一緒に居たいの。

 陽菜は、いつしか名前で呼んでいたそのひとが好きなのだと、そう言った。

 陽菜が今夜を選んだのは、それだけの理由があるのだろう。そうでなければ、こちらを優先するはずだから。そういう子だから。

――衣里、結城をお願い。

 そして涙が混ざった声で、それだけ言い残した。

 ……陽菜が心配していたのは、これか。

 程度はどうであれ、こうなる結城を想定していながら、それでも香月のところにいきたいというのなら、もうこれは陽菜の心は決まっている。

 そうして、この筋肉馬鹿はきっと――。

「また、陽菜にいい格好したんでしょうが。そんなに嫌ならなんで陽菜を渡したの、香月に」

『ははは』

 肯定の空笑いが聞こえてくる。

「それで嫉妬して泣くくらいなら、今からでも奪い取ればいいでしょう?」

『それが出来たら苦労しないわ。俺、両方の友達だから』

 確かに香月も、結城に懐いている気はする。結城と話す時、表情が柔らかくなるのに、私が気づいていないわけではなかった。

 友情でも繋がる、奇妙な三角関係。

「ばっかじゃないの。先に陽菜が危ないと気づいていたのに、なに香月牽制しないで、友情温め合ってるのよ」

『いい奴なんだ、あいつ。お前もそう思わね?』

 お人好しの結城。誰からも好かれる結城。

 だけど陽菜が選んだのは、陽菜が大切にしていた結城ではなく、二週間前に現われた香月。

 陽菜は戸惑いながらも、香月に捕えられた。

 ……陽菜、あんたも堕ちたんだね、出会った一瞬で。
 
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