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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「私はなにをすればいいわけ? あんたが泣き止むように子守歌でも歌う?」
『俺ここで寝たらどうするよ!?』
少しだけいつもの口調に戻ったけれど、それでも声は弱々しく震えている。
仕方がない。
本当は結城なんてどうでもいいけど、女々しくて見ていてイライラするけれど、陽菜を持っていかれるのが嫌ならなんで今まで手を出さなかったのよと言いたいけれど。その他諸々言いたいことはあるけれど。
「衣里様がなんかひとつだけ、わがまま聞いてあげる。なにか言いな」
それでも私にでも縋りたい結城をほっとけなくて。
結城の理解者が、今残るは私しかいないのなら、こんなに沈んでいる結城が明日は元気になるように、結城と陽菜が友達に戻れるように、私も友達として結城になにかしてあげようか。
結城のわがままは意外だった。
『真下、今夜飲みに連れてって』
いままでふたりで飲んだことはなく。
「たかるか、女に!」
『いや、支払いは俺持ちでいいけど、俺をつぶせよ。なんか俺の力では酔えなさそうな気がするから』
「ははは、いい度胸じゃない」
『今はちょっと……なにかに逃げたい気分。親父がこんな時に飲むなんてと思うけど、今夜俺……普通じゃいられないから。頼む、付き合ってくれ』
結城の声が震えて、私の心も震えた。
一方通行の想いは、私もよく知っているから。
どうしても勝てない相手がいる苦しみがどれだけ大きいのか、私もわかるから。
「わかったわよ、まずはこっちに戻っておいで。専務達に今日社長についていてくれるように話しておく」
『さんきゅ』
消え入りそうなその声に、言いたくなる。
「元気だしなよ、あんたの人生はまだ終わってないよ」
『そう、だよな……ははは』
結城は、人生が終わったような声を出した。
「あんたが背負っているのは恋愛だけじゃないんだよ、しっかりする!」
『ん……そうだよな。そうやって俺を怒って』
「いいよ。夜通し、怒ってやろうじゃないか」
『傷心なんだから、手加減しろよ』
「うるさいわ、その傷に塩つけてぐりぐり抉ってやるから。覚悟しな」
『痛いのはやめろ~』
笑い合いながらも、元気ぶらないといけない結城を思ったら、私の胸まで苦しくなった。