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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
***
タクシーで行こうかとも思ったけれど、ちょっと朱羽へのプレゼントを買いたくて、徒歩で行くことにした。
空には満月が雲間に翳っている。
いつもはあれだけぎらついて見えた満月に、今は恐怖も感じない。
だけど身体は疼き始めて、肌が火照ってくる。
安定剤を飲むと少しずつ効いてきたようで、少し頭がぼんやりとする。
朱羽のプレゼントを買いたい。
だけど金持ちの朱羽に、おかしなものはあげられない。
そう煩悶しながら、夜のウインドウショッピング。
色々見たけれど、付き合ってもいないのにアクセサリーとか財布とか、ネクタイとかも重いんじゃないかなと思い始めた。
朱羽の部屋には、形として残るものが少なすぎたことを思い返せば、朱羽自体、思い出を残したくないひとなのかもしれない。
そう思ったら、形になるものはやめて、単純にホールケーキにした。
無難かもしれない。けれど、誕生日が嫌でも、結ばれた記念として嫌な思い出を上書きして貰えたらいいなと、それを願って。
おいしそうなイチゴがたっぷりのケーキを選び、25本のローソクをつけて貰った。今日で三歳違いなんだ。
スマホで選んだケーキ店を出た時が、六時二十分。
帝王ホテルに向かおうとした時、声をかけられた。
「主任~」
甘えたような舌っ足らずの声。
「お久しぶりです~」
千絵ちゃんと、その横にいるのは――。
「これ、兄です」
向島専務か。
黒いコートを着た長身の男。
野性味を帯びた整った顔には、宮坂専務のような器は感じ取れず、ただ気難しそうなだけにも見える。
目だけが、鷹や鷲のようにとても険しい。
このひとが宮坂専務の友達であり、シークレットムーンを窮地に陥らせている元凶なのか。
「ちょっとお茶しましょうよ、主任」
千絵ちゃんが無邪気そうに笑って誘ってくる。
冗談じゃない。