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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
ザアアアアア。
近くには雨宿りができる場所がなく、タクシーも来ない。仕方がないからあたしはケーキを抱えながらホテルまで走った。
せっかく綺麗にお化粧したのに、せっかく洋服も昨日用意して、朱羽がくれた靴も履いてきたというのに。
雨にずぶ濡れになりながら、暗い道を走る。
ドクドク心臓が脈動している。
朱羽に抱きしめられたい。
凍えた身体を朱羽に温めて貰いたい。
ザアアアア。
ホテルまでもう少しのところで、車に水をかけられた。
ああ、もう泣きそうだ。
こんなぼろぼろで、こんな汚い格好で、朱羽に会いに行くなんて。
だけど会いたい。
どんな姿になっても、朱羽に会いたい。
ホテルまでの道のりがやけに遠い。
満月が脳裏にちらついて負けそうになる度に、朱羽の顔を思い出した。
涙と雨が混ざった顔で、ようやくホテルに入る。
突然の照明に目を細めながら、コートを脱いだ。
雨水を吸い込んでずっしりと重い。
ラウンジはどこ?
朱羽がいるラウンジは。
ラウンジにも朱羽の姿が見えない。
かけられている壁時計は七時二十分。
朱羽はどこ?
もしかして……、あたしが時間で来なかったから、怒って帰っちゃった?
スマホが壊れているのに、どうやって連絡すればいいの――?