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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
その時だった。
「よかった……来た……」
突然に鼻腔に広がる、この匂いは。
「陽菜……」
朱羽に後ろから抱きしめられていた。
「連絡もつかないから、俺……来ないのかと思って……」
強く強く、確かめるようにあたしを触りながら抱きしめる。
「それか……、強い発作が起きて誰かを、とか……」
「ごめん、千絵ちゃんに捕まって、雨降って……って、朱羽濡れるから!」
「それなに? なに抱えてるの?」
「ケーキ。お祝いしたくて。これ濡らさずに頑張って来た。崩れてなきゃいいけど」
そう笑ったらケーキの袋を奪われ、手を繋がれた。
「ここの上のレストラン予約とっているけど、まずは部屋に行こう。このままだと風邪ひいちゃうから」
ああ、朱羽が居る。
ちゃんと居てくれた。
「遅くなってごめんね。待っててくれてありがとう」
「ふふ、待つのは慣れてるから」
朱羽は受付はすませていたらしい。
歩きながらあたしに、朱羽の背広とコートを羽織らせた。
暖かくて、いい匂い……。
俯いた顔をにやけさせて、エレベーターに乗った。
あたし達しか居ない、鏡張りのエレベーター。
朱羽がボタンを押して扉が閉まると、朱羽はあたしを正面から抱きしめてきた。
「すごく身体が冷たい。ケーキよりあなたの身体を大切にしてよ」
「ケーキが食べれなくなったら嫌だもの。せっかくのお祝いなんだから」
朱羽の胸に頬をすり寄せると、濡れた髪を朱羽の手が撫でてくれた。
「お祝いより、あなたの方が大事だ。……本当に、よかった来てくれて」
「……這ってでも行くもの」
「はは。本当に這ったようにして来たね。そこまでして来てくれたのが嬉しい。凄く、嬉しい……」
朱羽は、凍えたあたしの唇に熱い唇を押しつけた。
朱羽の熱であたしの唇が蕩けていく。
四方八方に、幸せそうなあたしの顔が映った。
チン。
エレベーターが目的階に到着したらしい。
「こっちだね」
カードキーの番号が刻印されている扉の前。
朱羽はカードキーを差し込み、ドアを開ける。
「……っ」
あたしは緊張に息を吞んだ。
ここから先は、朱羽と過ごす部屋。
朱羽に抱かれる部屋なんだ――。