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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 
 大きな鏡が広がる、黒い大理石で覆われた洗面台はやはりゴージャスで、それを観察しながら朱羽が出て行くのを待っていたけれど、朱羽は鏡越しじっとあたしを見つめ、やがてぎゅっと苦しそうに目を細めると、後ろからあたしを抱きしめてきた。

「……陽菜」

「……っ」
 
 その匂い以上に朱羽の感触にあたしの肌がさざめく。

 全身の肌の下に燻っているものを、強く燃え立たせたい衝動と快楽を求めて過敏になっていく感覚は、満月の時の症状で。

 いつもはここから激しい燃焼に向けて一気に理性が薄まるのに、今は理性があるまま、身体だけの感度が朱羽の熱にて徐々に上がっているようだ。

 もどかしいくらいにゆっくりと。まるで焦らされているように。

 声を漏らさないように我慢しているあたしは、鏡の中から見つめてくる朱羽に声をかけられた。

「温まったら、最上階のレストランに行こう? 今、俺の体温で温めたいけど、温めるだけで終わりそうもないから、あとで一緒に入る」

「終わりそうもないって……」

「そのままあなたを抱きたくなるという意味。あなたの意識がちゃんとあるのなら、今夜は俺、ちゃんとしたいんだ。身体を先に繋げたくない。ちゃんとして、あなたを抱きたい」

 鏡の中の朱羽は挑発的な目であたしを見ると、鏡のあたしと視線を絡ませたまま、愛おしそうに目を細めてあたしの頭に唇を落とした。

 それだけで、頭頂から全身へ、波紋のように鈍い快感が広がっていく。

「身体は後で俺が洗って上げるから、頭だけ洗って浴槽に入っておいで?」
  
「……お風呂一緒に入るの決定事項なんだ?」

 鏡の中のあたしが苦笑する。

「そう、決定事項。今夜は俺から離れること許さないから」

 朱羽の指があたしの下唇の内側を触った。

 それだけでぶるりと震えてしまう。

「寒い?」

「そうじゃないけど」

「けど?」

「理性はあるのに、身体だけが満月みたいになってきていて。朱羽の熱とかに感じちゃうの」
 
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