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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 


 ***


「ええと?」


 あたしの服がない。

 下着はドライヤーで乾かしたものを履くというお粗末ぶりだが、脱いだあたしの服がないということは、朱羽がどうかしたのだろうか。

 代わりにタオルのバスローブが出ていたけれど、これでレストランに行けというのだろうか。

「朱羽、あたしの服……」

 あたしが着ていた、黒いスーツは朱羽によってクローゼットにかけられていた。

「それ、似合うといいんだけれど」

 はにかむようにして朱羽が、ベッドの上にある白いドレスを指さした。

 結婚式に着ていくような、光沢がある生地で黒いレースと黒い大きなリボンがアクセントになっている。

「これ、なに? あたしのじゃないよ?」

「ホテルにレンタル衣装サービスというのがあって、ちょっとそこに電話して、白黒でいい服を持ってきて貰ったんだけれど」

 朱羽は困ったようにして、ベッドの上にさらに十着くらいのワンピースを並べた。

「俺、あなたが丈の短いのが好きなのか長いの好きなのか、よくわからなくて。俺の好みでそれにしちゃったけど、こっちの方がいいなら……。それとも服買いに行く? 安っぽいなあという気もするんだ。ホテル内のブティックは七時で閉まっちゃっていたんだけれど、ホテルの外でこの時間空いてるブティックってあるの?」

 途方に暮れたような朱羽が可愛い。どんな顔で、借りたたくさんのドレスを選んでいたのだろうか。

 それでもあたしが好きな白黒の中でも、綺麗系ではなく可愛いデザインのものを選んでくれたのが、とても嬉しかった。

 あたしは年上だけれど、朱羽にとっていつまでも可愛い女でいたいと思ったから。

「朱羽が選んだのが一番好き。これにする。膝丈なのもいい」

「本当? よかった、俺の趣味のを選んで貰えて」

 朱羽はふわりとした綻んだ笑みを見せた。

 恥ずかしくて更衣所で着替え、化粧をし、乾かした髪をまとめ上げる。

「お待たせ」

「うん、可愛い」

 笑顔でさらりとキスをしてくるけれど、これは帰国子女だからなのか、朱羽という男の性格なのかはよくわからない。
 
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