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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「じゃ行こうか」
「うん」
朱羽は細身の黒いシングルのスーツに、あたしはふわふわとしたデザインの白黒のドレスを着て。
朱羽がさりげなく腕を曲げてあたしを見てくるから、あたしは微笑んでその腕に自分の腕を絡ませた。
王子様にエスコートされているシンデレラみたいな面映ゆい気分になりながら、朱羽が予約をとったという最上階のレストランに行った。
***
最上階はワンフロアがレストランのようで、奥がBARもあるようだ。
入る前に耳にマイクをした黒服の店員がやってきて、一般客はお断りしていますと朱羽に言ったけれど、朱羽はカードキーを見せた上で、身を屈めた黒服の耳になにかを囁く。
「失礼致しました、香月さまですね? こちらへどうぞ」
黒服は打って変わったような慇懃な笑みを浮かべて、あたし達を中へと案内する。
中は暗い。
回り一面が硝子窓でほぼ夜景の明るさの中、それぞれの席についている照明がほんのりと各テーブルを照らし出しているようだ。
中央にはグランドピアノが置かれ、そこに座っているスパンコールを散りばめたゴールドのドレスを着た女性が、ジャズのスタンダード曲を弾いている。
「あのひとになにを言ったの?」
「予約しているって言ったんだ」
「なんで内緒話?」
「なんでだろうね」
朱羽は意味ありげに笑った。
案内された席を見て、朱羽がはっとしたように尋ねてきた。
「っと、窓の近くなら辛いよね。真ん中にして貰う?」
「ううん、今夜は大丈夫そう。前に朱羽が連れてくれたイタリアンレストランに結城と衣里と行った時はちょっと危なかったけれど、今は大丈夫。あたしの意識がしっかりしてる」
「本当?」
「うん、外が晴れているのなら、10年ぶりに満月見てみたい」
なんで今夜は穏やかなんだろう。
なんで意識がはっきりとあるんだろう。
案内係とは別のウェイターがやってきてメニューを見せた。
「日本語じゃない……」
朱羽はメニューを見たが驚く様子はない。
朱羽が注文したと思われるそれは、英語ではなかった。