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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

 雨は完全に上がったようだ。

 満月は真ん前にあり、どこか青白く見えた。

 いつもはあたしに邪な力を与えてきている気がするのに、今夜はなにか見守っている気がして仕方がない。

「満月は心理面に影響があるというのなら、やはりあなたの心境が変化したんだと思うよ」

 朱羽はあたしの腰に手を置き、引き寄せる。

 それまで開いていた距離が急に縮まり、膝がコツンとあたる。

 それだけなのに、はしたなく声を上げたくなる。

「お待たせしました。ブルームーンと、ドライマティーニになります」

 あたしの前におかれたブルームーンは、紫色のカクテルだった。

「確かブルームーンは、ジンとバイオレットリキュールとレモンジュースで出来ていたと思うよ」

 朱羽はオリーブが入った透明なカクテルを口に含む。

 かなり辛口のジンのはずなのに、ごくりと三分の一は喉奥に落としたようだ。

 あたしも綺麗な紫色のカクテルを口に含んでみる。

「美味しい!」

「本当はね、俺……ポートワインを一緒に飲もうと思ったんだ。俺が勧めてあなたがそれを飲めば、さらに縁起がよくなるから」

 ブルームーンを飲みながら、目を瞬かせた。

「縁起ってなに?」

 朱羽はほんのりと目元を赤くさせて言う。

「ん? 告白の成就」

 思わずあたしはぷっと吹き出し、紙ナプキンで口を拭う。

「ちなみにブルームーンは、断りのカクテルなんだって。だから俺、カクテルの意味を無視して景気づけのマティーニ飲む羽目になった。誰かさんのせいで」

 拗ねたような声。

 膝で膝をガツンガツンと叩かれる。

「な! そんなこと知らないし!」

「知っていたら、たまったもんじゃないよ」

 朱羽の手があたしの肩を引き寄せ、あたしの頭を彼の肩に凭れさせた。

 しばしぼんやりと満月を眺める。

 満月をこんな風に見ていられるなんて、不思議な気分。

 だけど、もっと朱羽に抱きつきたい。

 お酒のせいもあるかもしれないけど、もっと朱羽に触りたい。こんなに近い距離でぼんやりしているくらいなら、キスをしたい。

 キスをして、好きだっていいたい。

 あたしのものにしたい。

「ごめん、もう限界。今まで我慢していたこと、話していい?」

 朱羽があたしの頭の上で頬擦りしながら言った。

 
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