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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「そうなんだ……」
「うん。だからひとりしかいない親に頼ったり甘えたりできなかったから、荒れた結城さんの気持ちがよくわかる。片親だというだけで、同年代の子供からは馬鹿にされるんだ。それでも子供って、友達と呼べるものが欲しいものだろ? だから自分の心抑えて相手に合せていた。楽しいなんて思えなかった」
「………」
「俺の母親は、金にもだらしなくてね。お金なんてないはずなのに、俺に学歴だけをつけさせたかったのか、私立の中学校に行かせたんだ。俺の学費だけはちゃんと出してくれて」
朱羽は伏し目がちに笑う。
「それが母なりの愛情なのかなと思ったから、言い出せなかった。同級生のレベルがあまりに違い過ぎて、肩身が狭い思いをしているなんて」
九年前に見た朱羽の写真。
あの制服は名門私立のものだったけれど、どれだけお金がかかるか見当もつかない。各地からの名士の子供が集うあの学校は、偏差値だけではなく暮らしのレベルも高そうだ。
「だけどやっぱり、そうした格差を見抜いて王様になりたがる奴はいて、低い奴らを奴隷のように扱ってね、表面的には友達ぶるけど、裏では酷くて。あの頃はしかも裕福層なら、身体を傷つけるということはなかったんだけれど、うまく万引きをさせることが流行っていて」
朱羽は自嘲気に口元を歪ませた。
「なんでも買える身分に生まれついているのに、そいつらが欲しい些細なものを盗ませてくるんだ」
あたしはじっと朱羽の横顔を見つめた。
「うまくいけば仲間はずれにしないでくれるけれど、うまくいかないと犯罪者だ。俺、そういうのが嫌で、万引きさせられないようにうまく取り繕ってきたんだ。へらへら笑ってね」
「うん……」
「それが面白くなかったんだね、ある時一緒に入ったコンビニで奴らが俺のかばんに未精算のプリンを入れたんだ。俺が気づかないうちに。それで奴らが先に外に出たから慌ててついていこうとしたら、店長に呼び止められた。勿論、万引きの疑いで。カバンから出てきたプリンを俺は入れていないと言ったけれど、その店長は信じてくれなくて。店長の背後の硝子の向こうで、奴らが腹を抱えて笑い転げていた。店長は警察を呼ぶと言って、奥の部屋につれて行こうとしたんだ」