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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
まるで記憶がない。
というか、あの頃……コンビニでの仕事は、細やかなところが曖昧なのだ。ただプリンと店長の思い出だけはあるけれど、時間帯によってはかなり客が来ていて、ひとりひとり見ていられなかった。
それとあの頃、やたら眠くてぼんやりとしていて記憶があまりないのも事実。もしかすると記憶が薄い高校三年の終わりから、結城と出会う大学二年までの間は、催眠療法が効きすぎていたのかもしれない。……満月の発作以外は。
「あなたは毎日ずっとバイトをしていたわけではなく、不定期だっただろう? 待ち伏することも出来ないほど、毎回変な時間帯で」
「あ、うん。店長が忙しい時間帯に入れてくるから」
「だろうな。俺が行くときいつも混んでいるし、目が合ってもリアクションがないから、さすがに俺もあなたに覚えられてないとわかったんだけれど、なんて話しかけていいのかわからなくて。で、ある夜、本当に偶然にばったりあなたに会ったんだけれど、あなたは大学の飲み会かなにかで、大人っぽい男性と女性と笑いながら歩いて、俺の横を通り過ぎたんだ」
「そんなことが……」
あたしは想像する。
朱羽が昔慕っていたあたしが、彼に気づかず通過する場面を。
朱羽が向けようとした笑顔が曇っていく瞬間を。
「あったんだ。俺悔しくて。どうしていいかわからない自分の不甲斐なさに泣けてきて。それで、俺を覚えて貰えないのは、俺が子供すぎるからだと思ったんだ」
朱羽はあたしの手を弄った。
「もう少しの誕生日で15歳になる。丁度学校で、昔は15歳で元服して大人の仲間入りをしたと聞いたから、それを支えに俺、あなたが一緒に歩いていた大学生のように髪を金髪に染め、精一杯背伸びして告白しようと思った。告白がうまくいかなかったとしても、俺を覚えて貰えると。覚えて貰えたら、後は俺がもっと大人になって、あなたが振り向くまで頑張り続ければいい」
「……っ」
「あなたのそのキラキラと輝く瞳に俺を映して、俺をひとりの男として愛して貰いたかった。そんな一大決心をして誕生日にコンビニに行ったら、あなたは居なかった。……辞めたと聞いた。あなたの名前も住所も教えてくれなくて」
――香月くん、今何歳ですか?
――おととい15歳になった……。
ああ、そうだ。
あの満月の数日前に、あたしはコンビニを辞めたんだ。