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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「だけど諦めきれずに、毎日バルガーに通っていたら、あなたが現われた。どんなに嬉しかったか。やっぱり辞めてなかったと」
辞めたのに店長から応援を頼まれ、あの満月の日限定で仕事をしたんだ。
「髪をまた金髪に染めた。薬局で売ってる後で洗い落とせるような、一時的な染色だ。染めるのは校則で禁じられていたから」
あたしは、朱羽と寝た朝、朱羽の枕が凄いことになっていたことを思い出す。彼が黒髪だと初めて知った。
朱羽の目が優しく細められた。
「九年前のあの満月の夜――、あなたを追っていた俺はあなたに声をかけられて、幸せすぎて死にたくなるくらい嬉しかったんだ。あなたは黒歴史であったとしても」
「……っ」
「だけど告白の前に、告白すらしていないのに、そういうことをしてもいいのか、それで躊躇したよ」
「え、チサという別の女の子が好きだったからじゃ? あたしをチサの代用で経験しようとしたんでしょう? だからあんなにチサが好きだって、すごくチサチサ言ってたじゃない」
朱羽はあたしの額にデコピンを食らわせてくる。
「いったぁぁぁ」
「あなたが自分をチサと言ったんじゃないか。だから俺、あなたの名前を知れたのが嬉しくて、あなたが本当にチサだと思って何度も呼んだのに。好きだと言ったのに。覚えてない?」
――好きだよ、チサ。
「あれ、あたし?」
「そう、陽菜に向けていた。あの時言っていた言葉は、拙かったかもしれないけれど、15歳なりに真剣だった。本気に陽菜が可愛いと思ったし、あなたを愛おしいと思って抱いていた。伝えていたつもりだったんだけれどね」
「……っ、だけど、次の日に告白するとかあたしに言ったじゃない」
――俺……、明日頑張って告白してみようかな、ずっと好きだったって。
「寝て起きたら、あなたに告白する気だったんだよ、俺は。俺初めてだったから不安で、だからあなたに聞いたら、大丈夫だっていうから。俺……」
あたしを……、満月のあたしを15歳の時から愛おしいと思ってくれていたの? あんなに乱れて、朱羽を食らった動物じみた女を初めて抱いて。
本当にこのひとは、満月のあたしを受容してくれる――。
そう思ったら、胸が熱くてたまらなかった。
感動なのか喜悦なのかわからない、灼熱の朱羽への想いが溢れて、胸を内から焦し溶かし尽くそうとしている。