この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
「なに言ったの?」
「大したことは言ってないさ。今は色々と敵情視察、フェアで行くためにちゃんとこちらの現状説明をしてきた。頭よくてよかったよ、意図はわかってくれたらしい」
「よく意味わからない。なんで課長が敵なのよ」
「それはおいおい」
「おいおいって……。だから、なんて? 課長の表情怖いけれど」
すると結城は小声で言った。
「"はい、まだ付き合っていません"」
「まだってなによ、変な誤解されるでしょ!?」
「あははははは」
少し酔った眼差しが、どことなく妖しげで。
ふたりが見ている前で、結城はあたしの耳にも囁いた。
「明日のホテル、予約してるから。だから今日もお前持ち去りたいの、我慢して帰る」
耳の穴に熱い息を細くふきかけられ、身体がぞくりとした。
結城なに!?
今までこんなからかい方、したことなかったのに!
「酔っ払ってるでしょ!?」
「さあね? 酒飲まなくても、先月の満月終わった夜から、明日を指折り待ちわびていたから、今ここで飛び上がってはしゃぎたい気持ち」
結城の眼差しは、完全肉食のものだった。
「な……」
耳に手をあてて真っ赤になって怒るあたしに、結城は笑い飛ばすようにして、あたしにひらひらと手を振った。
「真下、お前に渡してる営業用のタクシーチケット使っていいから、鹿沼をちゃんと家まで送り届けてから帰れ!」
「了解っ、課長!」
衣里が愉快そうに、敬礼した。
「よし! では香月課長、肉食いすぎたんで、俺は電車で帰ります。お先に失礼します」
そして――。
結城は、固まったままのあたしに微笑みかける。
あたしだけが知る、艶めいた顔をして。
「じゃ、明日」
……こんな挑発的な顔を、満月の夜以外で向ける結城を、あたしは知らない。