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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 


「なに言ったの?」

「大したことは言ってないさ。今は色々と敵情視察、フェアで行くためにちゃんとこちらの現状説明をしてきた。頭よくてよかったよ、意図はわかってくれたらしい」

「よく意味わからない。なんで課長が敵なのよ」

「それはおいおい」

「おいおいって……。だから、なんて? 課長の表情怖いけれど」


 すると結城は小声で言った。


「"はい、まだ付き合っていません"」

「まだってなによ、変な誤解されるでしょ!?」

「あははははは」


 少し酔った眼差しが、どことなく妖しげで。

 ふたりが見ている前で、結城はあたしの耳にも囁いた。


「明日のホテル、予約してるから。だから今日もお前持ち去りたいの、我慢して帰る」


 耳の穴に熱い息を細くふきかけられ、身体がぞくりとした。


 結城なに!?

 今までこんなからかい方、したことなかったのに!


「酔っ払ってるでしょ!?」

「さあね? 酒飲まなくても、先月の満月終わった夜から、明日を指折り待ちわびていたから、今ここで飛び上がってはしゃぎたい気持ち」


 結城の眼差しは、完全肉食のものだった。


「な……」


 耳に手をあてて真っ赤になって怒るあたしに、結城は笑い飛ばすようにして、あたしにひらひらと手を振った。


「真下、お前に渡してる営業用のタクシーチケット使っていいから、鹿沼をちゃんと家まで送り届けてから帰れ!」

「了解っ、課長!」


 衣里が愉快そうに、敬礼した。


「よし! では香月課長、肉食いすぎたんで、俺は電車で帰ります。お先に失礼します」

 そして――。

 結城は、固まったままのあたしに微笑みかける。

 あたしだけが知る、艶めいた顔をして。


「じゃ、明日」


 ……こんな挑発的な顔を、満月の夜以外で向ける結城を、あたしは知らない。

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