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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
酔っ払い結城に置いてきぼりにされたあたしと衣里と課長。
結城のせいで微妙に空気が悪い中(しかもなぜか、結城がいなくなってもあたしが課長から睨まれてるし!)、心情的にはこのまま衣里そそくさとタクシーで帰りたかったが、会社に勤める社会人としてはそれはいけない。直属の上司に挨拶をしてからではないと。
だって明日から、この課長と顔を合わせてやっていかないといけないんだから。たとえ心の中で、彼からどんなに嫌悪感を抱かれようとも、未来のためにここはきちんとご挨拶。
私生活のことで恨まれても、仕事のことに関しては誠実さを見せたい。
それでどう思うかはわからないけれど、あたしはいい加減なOLをしていないことだけは見て貰いたいから。それなりな常識はもっているつもりだから。
「では課長「鹿沼さんと真下さんの家はどちらで?」」
挨拶の中途でかぶせるように、今度は微笑まれて聞かれた。
なんだろう、睨まれているのと同じくらい、敵意のような悪感情を感じるんですが。
――あなたにとって……、俺は過ち?
ええい、怯むな。ただ純粋な質問じゃないか。
――……ひとが、信じられなくなりました。
……九年前は嘘をついて逃げた。だからせめて九年後の今、満月ではない時くらいは、嘘をつきたくない。
――そうやって警戒しないで結構です、私はなにもしませんので。営業の要を巻き込むのはやめて下さい。
「あたしは葛西、衣里は船堀です。課長のようにお洒落な都心に住めないですから。貧乏OLですし」
なにやら衣里が背中をばんばん叩いているが、意味がわからない。
「では、ここで……」
笑顔を作って頭を下げた瞬間、課長が言った。
「私、葛西臨海公園の方なんです」
「は?」
「私の家、おふたりからそう遠くないようですね」
にっこり。
完全に読みを間違えた。絶対お洒落で綺麗な課長なら、新宿あたりでの高級マンションに住んでいそうな気がしていたが、24歳、大学出たばかりの男にはまだ早かったらしい。
まあまあご近所さんの三人。そのうちのふたりが、課長である上司を置いてタクシーに相乗りをする。これは――。
「私もご一緒させて頂いてもよろしいですか?」
うん、やっぱりそうなるよね。断る理由がないし、誘わなきゃ失礼だ。