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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「あなたは現実に存在すると思い知らされたようで、もう一度日本であなたに会いたくなった。そのために早く大人になりたくて仕方が無かった」

「……っ」

「渉さんに頼んでようやくあなたを見つけて、シークレットムーンの上階に居ても、俺が窓から見下ろした先にあなたは居るのに、あなたの隣には結城さんが居た。……あなたの恋人だと思った」

 朱羽は重い口調で言った。

「だから俺がシークレットムーンに来た時、あなたが俺のことなんて忘れて、俺としたみたいな、あなたからの愛を錯覚するようなことを結城さんや他の男としているだろうと思ったら腹立たしくて、あなたに対して嫌な態度をとった。……ごめん」

 朱羽は額をあたしの額にコツンとぶつけて、弱々しく謝る。

 確かに、最初から朱羽は挑発的だった。恨まれていると思ったほどに。

「本当はまた会えて嬉しかったんだ。フルネームを言ったのは、九年前にあなたが俺の写真を見ていたのが、散らばったままの状態からわかっていたから。たとえあなたが今まで忘れていたとしても、覚えて貰えていない昔とは違って、九年前を思い出すほどにはあなたの心に俺が居た――だから、もう逃がさないと思った」

 鉄仮面で冷ややかで、だけどあたしを惑わせた有能な上司。

 あたしが困っているときは必ず手を差し伸べ、ひっぱりあげてくれた。

 好き。
 朱羽が本当に好き。

 朱羽への想いが大きすぎて、抱えるのが苦しくて、涙が溢れてくる。

 朱羽はくっつけていた額を静かに離し、至近距離からあたしの顔をやるせなさそうに見つめながら、指で涙を拭ってくれた。


 視線が絡む。


「今度こそ、あなたを捕まえたい。俺に捕まって欲しい」


 しっとりと濡れた茶色い瞳が、滾るような強さをもった。


「――あなたが好きだ」


 一瞬で周りからすべての音が消え、心臓がどくどくと忙しく拍動する音を耳の奥で感じた。


「今もずっと。……いや、昔よりずっと」
 
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