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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

「あなたが居るなら、あの家……好きになれるかも」

 同棲のお誘い。

 だけどそれより、朱羽が自宅を好きではないというところがひっかかる。

「なんで引っ越さないの? 嫌いなら」

「俺は……囚人なんだ」

「囚人?」

「……そう。それが条件だったから」

「朱羽?」

 朱羽が呟く。

「それでも、それでも俺は……」

 朱羽は遠い目をしてから、はっとしたようにあたしに笑顔を見せた。

「陽菜、考えておいて。家賃とかはいらない。あなたさえ来てくれれば」

「……っ」

「あなたが傍に来てくれたら、俺は……打ち勝つことが出来ると思うから」

 まただ。また遠い目をしてる。

「朱羽、なにかあるの? 打ち勝つって?」

 あたしは訝しげに聞いた。

「あのマンションに囚われているって、なにに?」

「………」

「教えてよ、あたしも力になりたいよ」

「………」

「朱羽!!」

 朱羽は苦しげに眉間に皺を寄せて目を細め、そして言った。

「……実はね」

「うん」

 真剣に相槌を打つ。

「あのマンションには……」

「うん」

 朱羽の目が険しくなる。


「幽霊が出るんだ」

「へ?」

「前に住んでいた自殺者の霊が俺を縛るんだ。自分の首を締めたように」

「ええええ!? あたし全然感じなかったよ!?」

「そうか? 俺の寝室によく現われる」

「あそこに!? だったらどうすればいい? どっかからかお札を貰ってきたりすればいい? それともお経読むとかお線香あげるとか。それとも十字架? ニンニク……は吸血鬼か。幽霊になにがいいんだろう」

「………」

「頑張って追い出そうよ、その幽霊」

 せっかく意気込んで、真剣にそう言ったのに。

「……ぷ」

「え?」

「ぷぷぷ……」

 朱羽は笑い出したのだ。

「ごめん、あなたがせっかく真面目に考えてくれたところ、悪いんだけど」

「え、まさか……」

「幽霊なんていないよ、あそこ新築だし。あははははは」

「朱羽~っ!!」

 ぽかぽか叩くあたしの拳を、朱羽は笑いながら手のひらで受け止める。
 
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