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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「え……」
「ひとに言いたくないのもわかる。辛くてたまらないのもわかる。同情されたくないのも、自分が穢れていると思うのも。痛いくらいに」
あたしは涙を零した。
「そんな自分を受け入れて、幸せになろうよ、千絵ちゃん。ヒール役になるんじゃなく」
あたしは千絵ちゃんの手を握った。
「自分を拒まないで、自棄にならないで。必ず救いはあるから。あたしもあったの。あって……あたし、課長を好きになれたの。そして課長もありのままのあたしを受け入れてくれた。汚いあたしなのにね」
千絵ちゃんは驚いた顔のままあたしを見ている。
「千絵ちゃんにもそういうひとが現われるから。だからもっと自分を大事にして。裏切ったことを後悔して情報を流すくらいなら、戻っておいで。あなたが誠意を見せればわかってくれる連中だよ。それは千絵ちゃんが一番わかってると思うけど」
「わ、私を……懐柔しようとしてるんですか? そんな作り話をして私と同じようにしなくたって……。大体動画を撮るくらいなんだから」
あたしは動画の画面を見せた。
それはどこまでもこの喫茶店の壁を映している。
「撮るはずないでしょう。あたしそこまで悪趣味じゃないし、わかるから。ひとに知られることがどんなに辛いか」
「い、いいんですか? 私言いふらしちゃいますよ? 匿名で掲示板書き込んで。鹿沼陽菜は実の父親に「したいならどうぞ」」
あたしがじっと千絵ちゃんを見つめると、千絵ちゃんは臆した顔をした。
「だけどあたし、千絵ちゃんは根っからの悪人じゃないと信じているから。信じているから、話したの」
千絵ちゃんは唇を震わせた。
「千絵ちゃんは千絵ちゃんのままでいて。千絵ちゃんの核は、誰にも穢されていないはずよ?」
「……っ」
千絵ちゃんは立ち上がった。
おしぼりで顔にあて、涙声で言う。
「もうやだ。やだ!!」
出て行こうとする千絵ちゃんを呼び止め、あたしは言った。
「千絵ちゃん、これあたしのいつもの黒い服と白いブラウス。あたしが着ていたものだけれど、これを着て。女の子なんだし、透けるのよくないから」
千絵ちゃんは紙袋を素直に手にして、呟いた。
「戻っていいとお誘い受けましたが、今更……戻れません。どんなに戻りたくたって、私にも良心はまだありますから。私は罪を償う側にいます」