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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
「ああ、そうだが。お前今日は都合悪いのか?」
「ええ、今日はちょっと、打ち合わせの仕事が……」
こうなったら、嘘も方便だ。
だがこういう時に限って我らが社長は、それで納得してくれない。
「どこの?」
「えっと……」
遊びかエロしか詰まっていないと思われた社長の頭の中には、実は全取引先と進捗情報を把握している。だからこそ、トラブルに対処できる。
だから社長に迂闊なことは口走らせられないために、現実感を出すためには実際の取引先の中でも進行中の社名を口にしないといけない。
横からは課長の視線。
"へえ、そんな予定あったの聞いてないけど"
ありませんとも! 今作った架空の打ち合わせです。
「ああ! そこの社長はあさっての土曜ゴルフだから、お前体調崩したとかうまく言っておく。だから今日の打ち合わせは延期しろ」
「ちょっ……」
「これは社長命令だ」
えらく低い声と、獲物を狩るような視線に、あたしの全身から血が引く。
怖っ!
「お前が仕切らないと、WEBの課長の歓迎会の意味がないじゃないか~」
だが次の瞬間、いつもの調子に戻る社長。
悲しい宮仕え、あたしのNOは絶対認められない。
ならば――。
「今日の歓迎会は、全社員ですよね?」
「そうだ」
「営業も一緒ですよね」
「勿論」
「だったら――」
あたしの満月の症状を知る結城もいるのなら、きっとサポートしてくれる。衣里もあたしの様子がおかしくなったら、きっと支えてくれる。
同期の結束は強い! なんとか乗り切れることを祈って。
「社長、打ち合わせ延期は私止まりにさせて下さい。大事にしたくないので、社長のフォローはいりません」
「了解」
「……では、鹿沼陽菜。ささやかながら、香月課長の歓迎会の幹事兼仕切り、やらせて頂きます。至急の社内回覧出しますから、後で判もらいに来ます」
あたしは自分のことで一杯すぎたのだ。
営業を持ち出したあたしに、隣の課長の目が忌々しそうに細められていたことに、あたしは気づかなかった。
終業して会社を出る際、衣里と結城の元に行く際、腕を掴まれて課長に言われた。
「……飲み会が終わったらお話がありますので、ちょっとお時間下さい」
結城と衣里が見ている前、真剣な声と顔で――。