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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

 驚きに開いた口が塞がらないけれど、完全否定出来ない自分がいることも自覚している。

 華やかな美人である杏奈。
 ナイスプロポーションである杏奈。
 高級化粧品を使っていた杏奈。

 いい男が目をつけないはずがない。

 あたしは、彼女がシークレットムーンに来るまで、あのロリファッションを理解されない職場で働いていたことがあるらしいこと以外、彼女がなにをしていたのかわからない。

 シークレットムーンに転職した動機も。

 今思えば、木島くんも千絵ちゃんも皆、シークレットムーンに勤務前は、二階の会議室を使い、新規にしろ中途にしろ、採用のための筆記試験なり面談なりをうちに来させて実施していた。

 あたしと衣里は彼らが休憩している時にお茶を出し、休憩時間の彼らを観察するように社長から申しつかっていた。仲間として上手くやれそうかと。

 思い起こしても、あたしの記憶に居た面接者の中に杏奈はおらず、気づいたら、社長が今日から仲間だと紹介していた。

 衣里や結城ですら事前になにひとつ、社長から杏奈のことを打診されていなかったが、彼女の経歴故に特に疑問も持たず。

 つまり彼女は、彼女の意志でうちに働きたいと正規のルートで応募してきたわけではなく、社長へと直接繋ぐ縁故なりなんなり特殊ルートでやってきたということになる。

 そんな彼女と千絵ちゃんは、すぐに仲良くなっていた。

 ふたりはわかっていたのだろうか。向島専務の元恋人と妹だということに。杏奈なりに守っていたのだろうか、千絵ちゃんの心を。千絵ちゃんなりに気遣っていたのだろうか、杏奈があの格好をするに至らしめたものを。


「お待たせしました」

 その時ランチのセットが運ばれてきた。

 とろっとろの卵がかけられたホワイトクリームがかけられたオムライスにミネストローネにサラダ。

 朱羽はデミグラスソースがかけられている。

 一口食べれば幸せになる、そんな絶品オムライスを頬張りながらも、やはり話題は美味な味覚より、杏奈の話に戻ってしまう。

「宮坂専務が、杏奈をシークレットムーンに入れたの? たとえば向島専務から奪うために?」

 千絵ちゃんが言うとおり向島専務が変貌したきっかけが杏奈に関することで、そして宮坂専務に対する友情破滅が杏奈がうちで働いたことに由来するのなら、ありえないことではないだろう。
 
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