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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
アホな奴。なにが「早かったなあ」だよ。時間気にしていたのばればれじゃないかよ。これじゃあ陽菜、なにも喋れないよ。
私の出番か?
強張った顔で引き攣って笑っているだろう結城をぶん殴って、また説教か?
その時だった。
「おはよう、結城。一番美味しそうなケーキ、結城に買ってきたよ。丸い奴だからね」
明るい陽菜の声。
「お、おう?」
「表参道まで行って並んで買ってきたんだからね!」
これは結城の脳天気さが陽菜に移って、或いは幸せすぎて頭の中がとろとろになりすぎて状況がわからない……もしくは結城なんてどうでもよくなった発言か?
壁からじっとエレベーターから降りたふたりを見る。
「大好きな友達と、……大好きな彼氏に、ケーキ食べて欲しいんだ」
震える陽菜の声。
「あたし……朱羽の恋人にして貰った。……付き合った」
ああ、陽菜。陽菜はきっちりと結城に線を引こうとしているんだね。
私みたいに、引き摺らせないために。
あんたは優しいから、どんな思いでそんなことを言ったのか、私はよくわかるよ。結城を見ながら、あんたもまた傷つく覚悟か。
「付き合ったか……。だよな」
辛いね、辛いよな、結城。
「エレベーターの扉が開いた時に、香月に寄りかかってたお前……、凄く幸せそうだった。もう決定的……」
あんたが本当は、陽菜の隣に立ちたかったんだものね。
「俺が……そうさせたかった。だけど……お前は香月の元で目覚めたんだな。長く満月の夜を過ごしても、俺とは眠り続けたままだったけど……」
私と同じ、8年も見続けてきたんだものね。
「満月、大丈夫だった。あたし……克服出来たみたい」
「……そうか。精神科医に昔言われていたんだ。お前が本当に心から誰かを愛することが出来たら、過去を克服できるだろうって。……じゃあもう本当に俺は……必要ないな。男としては」
結城は香月の前で頭を下げた。
それは営業課長に相応しい、素晴らしいお辞儀で。
「鹿沼をよろしく頼みます。こいつを……泣かせないでやってくれ。ずっとずっと……愛してやって欲しい。こいつが今まで苦しんできた分」
偉い。
よく言った。
あんた、男を見せたよ。
香月も綺麗に頭を下げた。
「はい、ずっと愛し続けます。ありがとう、結城さん」