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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 
 ***


 衣里から電気ポットを奪い取り、ふたりで先に病室に行くと、先に来ていたらしい木島くんがすっ飛んできて、あたしの電気ポットを奪う。

「おはようございます。鹿沼主任は働いたら駄目っす!」

 またもやぴっちぴちのシャツの模様は、白地に真っ赤な薔薇が筋肉の隆起に横長に伸び、キスマークが無数に散っているようだ。

「なんで陽菜は駄目で私はいいのよ、どういうことよ!?」

 ぴっちぴちでも黒の綿パンはいいとして、なんでそのサイズのその模様なんだろう。売っているお店もお店だし、買う木島くんも木島くんだ。

「真下さんは営業で鍛えた足腰があるっすが、主任はヤワっす。同じWEB部の後輩として、主任に倒れられたら駄目っす!!」

 口からではなく、鼻から息がしゅうしゅうしている。新たな技を開発したのか。

「木島くん、あたしはヤワじゃないぞ?」

「いやいや主任は……」

 すると木島くんはあたしを真っ正面から見るなり、まじまじと見つめてくる。

「な、なによ?」

「服のせいっすかね? 主任がとても可愛く見えます!」

「いつも可愛くなくて悪かったわね!!」

「いやいや、そういう意味ではなく、いつもはクールな装いできりっとしているのに、なんだか幸せオーラ満開のオトメ……」

 どきっ。

 木島くんのオトメセンサーにひっかかってしまったようだ。

 ここは普通に、平然と切り返さないと……。

「はいはい、服に着られている鹿沼さんが、ケーキ買ってきたわよ。丸いのとミルフィーユ以外は、専務と沙紀さん優先で好きに配ってくれる?」

「うほっ、夕方には売れ切れてしまうというフランス菓子の『Arbre de Confiserie(アルブル ド コンフィズリー)』じゃないっすか!!」

「なに、木島くんもチェック済みなの!?」

「デザイン課所属としては流行ものチェックっす!! 俺、テを入れます」

「手?」

「陽菜、thé (テ)はフランス語で紅茶のことよ。フランス菓子だから合わせたんだろうね」

「さすが真下さん。俺、大学でフランス語専攻したっす!
Je sers du thé délicieux dans l'accord avec un gâteau.」

 そう言いながら木島くんが背を向けて、紅茶パックを探し始めた。
 
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