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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「へぇ、意外。そんな外見なのにフランス語出来るんだ?」
「真下さん、外見は関係ないっす! 俺、フランス映画大好きだから、字幕なしで読めるようになりたくて、勉強したっす!!」
「衣里。木島くん、なんて言ったの?」
「ん? ええとね」
衣里に代わって、それに答えたのは――、
「"私は、ケーキに合う美味しい紅茶を淹れます"だ、カバ」
ワイシャツ姿の宮坂専務で、
「ちょっと話がある。こっち来い!」
険しい顔で、問答無用にあたしの手首を掴み、寝具がある客間に連れた。
「どうなった?」
少し強張っても思えるその顔は怖いくらいに真剣で、あたしはてっきり、向島専務に会った件がもう耳に伝わっているのだと思い、真顔で答えた。
「理解は……得られませんでした。お互い」
「はああああ!? お前、なにやってるんだよ、朱羽! 戻ってきてんだろ、朱羽!! 直ちに速やかにこっちに来い!!」
宮坂専務が部屋から朱羽を呼ぶと、丁度病室に戻ってきたらしい朱羽が、ドアを開けてこちらを見た。
「呼びましたか?」
「いいから、早くこっちに来い!! お前に話がある!!」
専務はなぜか涙目で朱羽を睨み付けると、朱羽はきょとんとしているあたしと専務を見比べただけで事態を察したのか、愉快そうに笑い始める。
「理解を得られないって、どんな話し方したんだよ。お前ちゃんと、素直にカバに伝えたのか!? お前の言い方がまずかったんじゃねぇか!? カバはお前のこと惚れてるのに、なんでうまく行かないよ!? ホテルで、ただカバとぐうすか寝てきただけなのか!?」
「えっと……?」
なにか話が違うような気がして、あたしは首を傾げた。
「向島専務のことでは?」
「こんな時に誰があいつのことなんて気にするんだよ、お前だよ、お前と朱羽の話!! うまくいったかいかなかったのか、朱羽もお前も電源切ってるから俺、心配で心配で……」
「あたしはスマホが壊れて……」
「そんなことどうでもいいよ、うまくいったのか、いかなかったのかどっちだ!?」
あたしは朱羽と顔を見合わせると、朱羽があたしの肩を抱いて言う。
「おかげさまで、つきあうことになりました」
「よっしゃあああああああ!!」
宮坂専務が拳を引き、大声で歓喜の咆哮を上げた。