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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 
 
「もう、なに? うるさいんだけど……」

 しかめっ面をして沙紀さんが入ってくると、あたしと朱羽が挨拶する前に専務が沙紀さんを強く抱きしめた。

「沙紀、朱羽とカバ、つきあえたんだって。マジ嬉しい」

「嘘、本当!? 朱羽くん、よかったね。本当によかったね」

 泣きながら抱き合っている専務と沙紀さんを見て、朱羽は照れたように頭を掻いた。





「もう本気に驚かすな、朱羽。真っ先に連絡入れろよ!!」

「すみません、顔を見て直接言いたくて……」

 朱羽が専務から「髪の毛くしゃくしゃの刑」を食らっている。その前はあたしも食らった。アフロになるかと思われるほど容赦なかったが、これが彼なりの喜びの表現だと沙紀さんが笑って教えてくれた。

「もうね、私と渉で、全面的に朱羽くん応援していたのよ。忍月コーポで朱羽くんが切なそうに陽菜ちゃん見ていたのも知っていたから」

「……っ」

「本当に朱羽くん、陽菜ちゃんのことが好きだったからね、陽菜ちゃんが朱羽くんを好きになってくれて本当によかった」

 そうやって改めて他人の口から朱羽のことを聞くと、あたしはどんなに朱羽に愛されていたかを知って胸が熱くなる。

「この~、この~」

「渉さん、ギブ!! ギブ!!」

 片腕を朱羽の首に巻き付ける、いわゆるヘッドロックを食らいながらも、朱羽は嬉しそうにもがいている。こういう時の朱羽の表情は、年下のあどけなさを感じて、母性本能が擽られる。

「渉は私よりずっと前から、朱羽くんのことを理解して可愛がっていたからね。そりゃあ嬉しいと思うよ、朱羽くんの恋がようやく実ったんだから。長い長い冬だったのに、ようやく春が来たんだものね。……朱羽くんあんなに嬉しそうで、渉も私も嬉しい」

 沙紀さんがにこっと笑った。

「私にしたら複雑でもあるわ。だって陽菜ちゃんは覚悟決めたんでしょう?」

「覚悟?」

「うん。朱羽くんが――「沙紀さんっ、ストップ!!」」

 沙紀さんの言葉を、ヘッドロックを解除されたばかりの、必死な朱羽の声が止めた。
 
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