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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「その話はまだしないで!」
「え、まだ言ってないの?」
「あとで俺の口から言うから。だから……っ」
「あ……ごめん。陽菜ちゃん、聞かなかったことにして? あは」
……沙紀さんも知っているのか、朱羽の秘密を。
あたしだけ知らないんだ、それを。
――私にしたら複雑でもあるわ。だって陽菜ちゃんは覚悟決めたんでしょう?
どういう意味なのだろう。
朱羽と付き合うのに覚悟がいるというのだろうか。
不安なあたしの頭を専務がぽんぽんと軽く叩く。
「……今度、朱羽が自分で話すから」
「専務もご存知なんですか?」
「……ああ。俺も沙紀に話すまでに時間がかかった。今が幸せであればあるほど、それを話すことでなにかが壊れそうで怖い……そういう類いのもの。相手に惚れていればいるほど、俺達は簡単には言えない」
なんだろう、それは。
「朱羽が話したら、その時は朱羽の力になってくれ。お前が、沙紀の出した結論に至れることを、俺も望んでいる」
沙紀さんと朱羽はあたしと専務の会話が聞こえていないのか、不安そうにあたしを見ているから、あたしは大丈夫だと笑って見せた。
「さ、二人とも月代さんに挨拶しろ。もう少しで、三上も来るはずだ」
「え、杏奈が? 呼んだんですか?」
「いや、さっきここに来たばかりの木島に、三上から連絡があったそうだ。一時半には着くと。どうやら面会希望の社員は木島に電話を入れることになっているらしい。午前中に半数が来た」
チクビー木島、へんてこな私服姿で、休日でもマネージャー業を頑張っているらしい。
「……専務は、杏奈が向島専務の元婚約者だとご存知だったんですか?」
「なんだ、行き着いたのかそのことに」
専務は苦笑しながら言った。
「ああ、知ってた。……だが、あいつから奪ったわけではない。あいつは勝手にありもしない三角関係をこじらせているが」
やはり事情があるのか。
「三上が来たら話をしよう。……それと朱羽、この件にお前は関係ねぇから。俺とあいつの話だ。だからそんな顔するな」
専務は立ち竦む朱羽の肩を叩いて、部屋から出て行った。