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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
社長は気怠そうにしながら、やはり起きて話すほどの元気はなさそうだ。
点滴の栄養ばかりで、さらに痩せた気がした。
あたしと朱羽に語りかけようとする顔は、どこまでも笑顔で……、どこまでも儚げで。
そしてこっそりとあたしに聞くんだ。
「睦月は、心を決めたようか?」
結城のために建てた会社。
月代であり睦月でもある、月に想いを託して語り継ぐ「ムーン」。
どれだけ社長は結城を社長職に就かせたかったのか。
結城は社長よりも、友達とみなす者全員の前で、まず宣言した。
だったら、結城が社長に自ら口にするまでは、あたし達は黙する。結城は結城なりの考えがあるはずだろうから。
……あたしの大好きな友達の決断に、従うだけだ。
喫煙所に行っていた結城が、杏奈と朗らかに戻ってくる。
社長が回復していないから、まだ願掛け中の美人バージョンの杏奈。
「ちーす!!」
……このちぐはぐさが、今はなぜか……痛々しく思う。
杏奈のこうした振る舞いに、なにが隠されているのか。
それは向島専務とのことが無関係とは思えないんだ。
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「三上。今日カバと朱羽が、向島宗司と会ったそうだ」
社長の前で、社長代理の専務がそう言うと、いつも天真爛漫な笑みを見せる杏奈の表情が、僅かに崩れた。
「へ、へぇ? 敵情視察って奴?」
それでも取り繕われる笑顔。
杏奈のためにはあたしと朱羽の胸の内に収めた方がいいかとも思ったけれど、向島専務が杏奈が欲しくてシークレットムーンに手出しをしてきたのなら、杏奈の問題は会社の問題でもある。
とりわけ、これから社長になろうとしている結城にも、あたしと一緒に結城を補佐して行かないといけない衣里にも木島くんにも。
……そして、多分、事情がわかって杏奈をシークレットムーンに入れただろう社長にも。
隠蔽している時期は終わりを告げたのだと、あたしは思った。