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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
課長が部屋に戻ったことを知らない女子は、スマホを出してわいわいしている。どうせ盗み撮りしたものを見せ合ってでもいるのだろう。
結城は社長と話していてこちらに背を向けており、あたしの隣に香月課長がいる状況を見ているのは誰もいない。
「………」
「………」
隣にきて座っても、特に会話があることもなく。
賑やかで熱い風景から切り取られて隔離されたような、静謐にも思える今の状況。それに緊張してくるのは、身体が高ぶりつつあるからだろうか。
九年前のように、香月朱羽を男として意識してしまっているのだろうか。
――チサ。
あの柔らかな笑みを浮かべていた彼を、ここまで冷たくさせたあたしは、懲りずにまた身体を求めているのだろうか。
「………」
「………」
隣に居ると思うだけで、やけに身体が疼き出す。
ここから去らないとおかしくなるような予感がして立ち上がろうとしたら、座ったままの課長があたしの手を引いて、元の位置に無理矢理に座らせた。
「課長……?」
テーブルの下で、あたしの手の甲を掴んだまま離れない手。
課長はあたしを見ずに、傍にあった誰かのビールが入ったコップを手にして、呷(あお)った。同時に上から押さえつけられていただけの手が、ぎこちなく向きを変えた。
掌を握られる――。
「なっ!」
退けようとしたら、さらに強く握られた。
誰も手を握られているとは気づかないだろう。
課長はあたしを一切見ずに、水面下でそんなことをしているのだから。
「私は」
ぼそりと彼はしゃべり出した。
「飛び込んで来いとも言えないし、二次会一緒に抜けようともいえないけど」
そして彼はあたしを見た。苛立っているような顔で。
「上司命令で、行くなとは言える。最後まで私に付き合えと、それが部下でしょうと」
彼の瞳の中で、熱をもった光が丸くなる。
「そんなこと言いたくない。だから……、あなたの意志で誰のところにも行かないで」
丸く丸く、まるで丸い月のように。
「話をしたいと言ったでしょう?
……真剣な話だから、これが終わっても俺の傍にいて下さい」
満月のように――。