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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 


 周りの音が止まった――。


 ゆらゆらと、彼の中の満月が揺れる。

 まるで水面に浮かんでいるかのように、静かに……だけど力強く波打ちながら広がり、彼の瞳は満月の色に染めあげられていく。

 あたしを惑わせる、熱を帯びた妖艶な色に。

 琥珀色に。


 彼の手から伝わる熱と強さが、あたしの思考を九年前までに巻き戻す。


 激しく打ち込まれた腰。

 爪を立てた汗ばんだ背中。

 貪り合った唇。


 満月が溶け琥珀色になった瞳を細めて、妖しく微笑む彼。

 汗ばんだ身体であたしを抱きしめて、少し掠れた喘ぎ声を聞かせた彼。

 彼の匂い。彼の髪の柔らかさ。


 あたしではない名を呼んで、あたしに快感を刻んだ彼が、目の前にいる。


――好きだよ、チサ。


 九年前の彼がいる。

  
 抱かれたい――。

 チサの代わりでもいいから、あの時みたいに抱かれたい。


 そう思ったあたしの頭が、ツキン痛んだ。


 発作だ。

 頭痛を発端に消えていた音が復活し、喧噪が洪水のようにあたしの耳に溢れる。


――……ん! ……は……と……んだ。

――……して!? なんで……の!?

――……して、お……ん。


 誰かが叫ぶ。


――いやああああああああ!!


 満月が、金色に輝く月の光が、あたしの中で暴れる。

 すべての色を、一色に塗り替えたいかのように。

 すべての記憶を、消し去りたいかのように。


 抗えない。満月のこの膨大な魔力に惑ってしまっては。

 この衝動が、止まらない。


 ああ――。

 身体の疼きが止まらず、身体を掻きむしりたい。

 あたしの身体を覆うすべてを脱ぎ去りたい。


 目の前の琥珀色があたしを動的に扇情する。


 抱いて、抱いて、抱き潰して。


 理性が悲鳴を上げる。


 やめろ、やめろ、彼から離れろ。


 理性と本能がせめぎ合い、その苦しさにあたしのは思わずテーブルの上に突っ伏した。


 止めどなく高まる情欲にぞくぞくが止まらない。

 身体が汗ばんで、手足が震える。


 下着はぐっしょり濡れているだろう。


 狂おしいくらいに彼が欲しくてたまらない。

 めちゃくちゃにされて、思い切り貫かれたい。


 この乾きを、どうか癒やして――。

 
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