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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
これからはあたし達が同じ責任を負わないといけない。たとえそれが個人の事情から端を発したにせよ、杏奈もあたし達と同じ社員であり同僚であるのなら、会社の危機として杏奈を理解しないといけない。
「あたしは杏奈を責める気は全くない。ないけれど、杏奈の口からなにがあったのかを知りたい。向島専務の言葉より、杏奈の言葉を信じたい」
向島専務は、杏奈との関係を口にしていない。
それはあたしと……いや朱羽の思考の中で行き着いた結論であり、宮坂専務がそれを是として、三角関係ではないと言っただけの話。
それでも杏奈にして見れば、あたしと朱羽が向島専務からすべてを聞いたと思っているかのように、怯えた顔をした。
「……杏奈、千絵ちゃんを通して向島の接触を拒否して、黙々とシークレットムーンのために働いてくれた。杏奈が凄く優しくて仲間と会社を愛してくれていることはわかっているつもりだよ。責めたいんじゃないの。杏奈の抱えているものを、皆にわけて? 杏奈や宮坂専務に出来なくても、当事者ではないあたし達に出来ることってあるでしょう?」
杏奈は俯いた。
目鼻立ちがくっきりとした美人だから、表情の僅かな翳りでもよくわかる。杏奈は無神経な人間じゃない。向島が出てきた意味を悟っていたはずなのだ。
「三上さん、俺聞きたいっす」
木島くんがしっかりとした口調で言った。
「三上さんは笑っていてもどこか遠くを見ている時があった。それ、俺気になっていたっす。三上さんの人柄はここに居る全員がわかっている。三上さんがたとえ前科持ちの元ヤンでも、誰も嫌わないっす!」
「木島くん、私前科もないと元ヤンでもないよ?」
「だったら怖いものなしっす!!」
木島くんに圧されるようにして、杏奈は話し始めた。
「私ね……、前に勤めていたのが、向島開発だったの」
初めての……素の口調で。
「向こうのシステム開発の部長をしてた」
「部長!?」
あたしが驚いた声を出すと、杏奈は困ったように笑った。
「ちゃんとした技術者が確保出来なかったから、プログラム組めるから皆の教育係としての役職。私が偉いわけじゃない」