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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon

 木島くんが腕組をして、頷きながら言った。

「……俺納得っす。三上さん、いつも主任の心配してたっす。俺がしっかりしてないから、主任がなんでもひとりでしようとして、このままだと倒れるって」

 木島くんを成長させたのは、杏奈――。

「……三上さんもそうだったからっすね?」

「……まあね。役職があるばかりに、外と下を束ねるのが大変なのは、私も知っていたから。鹿沼ちゃんは働きづくめだったから、上に香月ちゃんが入ってきてくれて、私本当にほっとしてる」

 杏奈はいつもあたしに声をかけてくれていた。

――鹿沼ちゃん、元気?

――鹿沼ちゃん、杏奈に手伝えることある?

 半人前の私を、杏奈は見守ってくれていたんだ。

 奇抜な格好をして、甘ったるい口調をして。社内でも浮いていた彼女は、「主任 鹿沼陽菜」をよく見ていてくれた。

「杏奈~」

 あたしは横から杏奈に抱きついて泣くと、杏奈は笑いながらあたしの手を優しく撫でてくれた。

 優しいお姉様の温かさ。

 そして同僚としての頼もしさ。

 杏奈は、ゆっくりと言った。

「私を育ててくれたのは、向島の社長なの」

 社長、つまりそれは……。

「宗司……向島専務のお父さん。……私はね、親に売られたの。借金のカタに。それで中学生の時には既に、社長の愛人だった」

「……っ」

 誰もが息を飲む中、宮坂専務だけが腕組をしながら俯いていた。彼は杏奈の境遇を知っていたのだろうか。
 
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