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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「ベタな話よね。宗司の未来を思うなら、別れて社長の下に戻れと。遊びの時間は終わったのだと。……なにが悲しかったのかってね、私と宗司は真剣に愛し合っていたのに、そう彼も社長に宣言したのに、私達は遊びだと思われていたこと。いつか冷める、一過性のものと」
――私の玩具となっていた傷だらけの女が、未来の向島財閥を背負う宗司の妻になれるか?
「宗司は向島財閥の分家の出だということは知っていた。だけど結婚をすれば本家の人間になれるということを知った」
杏奈の目から涙が零れた。
「だったらねぇ……、宗司のためには私がいない方がいいでしょう?」
涙で濡れた紅の唇が震撼している。
ああ、杏奈ももうひとりのあたしだ。
穢れた人間だという卑屈さが、愛から遠ざからせた。
「宗司は理解しなかった。社長を憎悪してこのままだと社長を殺してしまうかもしれない、そんな狂気を目に宿し始めたから、私は行方をくらませたの。"好きなひとが出来たから"とメモを残して」
杏奈は専務を見て――、
「……本当は私は、社長の下に戻らねばならなかった。だけどそんな私を助けてくれたのが……宮坂専務なの。宮坂専務と私は今まで面識がなかったのに、専務は私が宗司と愛し合った仲だということを事前に調べて、向島と対立していながら上位にある忍月系列のシークレットムーンに、……専務の手の中に私を入れて隠してくれた。専務がいなければ、私は……」
静かに、深々と頭を下げる。
「今頃、私は……この世にいませんでした」