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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「違うぞ、三上」
専務は顔を上げた。
「俺は自分のエゴで、向島社長の毒牙が三上を襲ったら、向島が悲しむと思っただけだ。すべてを知った上で、シークレットムーンに入れることを決定したのは月代さんだ」
そこには、社長にも似た温かな笑みが浮かんでいる。
「それでも……」
「なあ、三上。俺はなにも大したことはしてねぇんだよ、本気に。それだったら、色々な面での問題児を集めて、ひとつの家族を作ろうとした、月代さんに感謝しろ」
あたしの頭には、社長が言っていた言葉が蘇る。
社長はあたし達社員の父親であり、あたし達社員は社長の子供で。社長は子供が作れないから、代わりにあたしも結城も、衣里も杏奈も、そして多分千絵ちゃんですら、下手をすれば社会に適合できずに居場所をなくしていたかもしれないあたし達に、社長はひとつの家を作って守ろうとしてくれたんだ。
なにも問題がないように見える木島くんだって、他の社員だって、もしかすると目に見えないだけで、なにか問題があるのかもしれない。
あたし達は、助け助けられてここまで来た――。
「俺が月代さんにして貰ったことを思えば、俺がお前にしたことはあまりに小さすぎることだ。俺を神みたいに決して思うなよ、三上。月代さんに笑われちまうよ、俺」
そして社長が守った宮坂専務もまた、社長の精神を受け継ぎ、その慈愛の精神で朱羽を守ってくれた。沙紀さんだって、かつての社長の部下として専務にも影響されながらも、専務と共に朱羽の家族となった。
そうやって人間は、見えないなにかで繋がっている。
「あたし達は、ひとりじゃないよ、杏奈」
孤独だと思うのは、差し伸べる手が見えないということ。
あたしの周りには、沢山にあたしを、そして杏奈を守ろうとしてくれる手がちゃんと出ている。
今度はあたしから杏奈へ――。
「生きていてくれて、ありがとう……」
朱羽に貰った言葉を、今ならあたしは杏奈に言えるから。
「鹿沼、ちゃん……っ」