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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「三上……」
社長が弱々しく病床から呼んだ。
社長の発声が弱くても、ちゃんとあたし達の声は聞こえる。
杏奈が社長のベッドの脇に立つ。
社長が上げた手で、専務がなにをしようとしていたのか気づいたようだ。
「三上、屈め」
「え?」
「いいから」
膝立ちをした杏奈の頭に、社長の手が置かれる。
「負けるな」
病気と必死に闘っている社長の言葉に、
「復縁するのもしないのも、お前の未来だ。……このままの状況が辛いのは、お前だろう? 今度は逃げずに、自分の気持ちと戦え」
「しゃ、ちょ……っ」
杏奈は社長に縋るようにして泣いた。
杏奈があの奇抜な格好をするようになったのは、向島に見つからないようにというのと共に、本当に杏奈の趣味でもあったらしい。
社長に"飼育"されて育った彼女は、『玩具人形』というタイトルの、パソコンで見たロリータ系のネット小説に影響を受けたそうで、 あの格好をしている時向島のことを忘れていられたそうだ。
専務の声が響く。
「俺は単純に、三上を向島の父親の手から守るつもりだった。向島から、惚れた女がいて父親の手に戻らないか心配だと、酒の席で聞いていたから、三年前の向島の変貌に驚いた俺は、事態を察知して調べ上げて三上を庇護した。それはあいつからではなく、あいつの父親からのつもりで」
「渉さんは、向島専務にそのことを話したんですか?」
朱羽の声に、専務は薄く笑う。
「俺が話した時、もうあいつは三上がいなくなったことで、おかしくなっていてな。幾ら保護をしたと言っても、俺が三上に惚れたから奪ったのだと邪推した。幾ら沙紀がいると言っても、信じなかった。だから俺は、あいつがまともに話せるようになるまで、とりあえずは三上を忍月所有のマンションに入れた」
「だけど……宗司が調べて押しかけてきて、窓硝子を破って中に入ろうとしたり、ドアをがんがんと長い時間蹴り飛ばしたり」
杏奈が弱々しく語る。