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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
後継者問題――。
なんだか最近聞いたことがある。
確かあれは……。
あたしは専務を見た。
専務が確か初めて会った食堂で、彼がそんなことを言い出したのだ。
忍月財閥に関わる、このビルに漂う噂を。
それは、噂ではなかったのか。
それでこの時期に、向島専務が動いたというのか。
「……冗談じゃないわよ」
衣里が呟いた。
「私情で会社がなんで危機になるのよ。大体、杏奈が逃げているのならそこで終わったとどうして納得しないのよ。どうして宮坂専務の言うことに耳を貸さないのよ、どうして……社長を苦しめるのよ」
「衣里……」
「本当に冗談じゃないっす。忍月財閥の事情も向島財閥の事情も、俺達には関係ないっす。なんでシークレットムーンが、勢力争いの道具になるっすか!」
「木島くん……」
「だったら余計、きっちりケリつけてやらないとな」
結城はそう不敵に笑うと、社長の傍に立って言った。
「社長を俺にやらせて下さい」
社長は手を伸ばして、結城の手首を掴んだ。
「こんな時に、すまないな」
哀れんだような、だけど少し嬉しそうな表情を顔に浮かべて。
「こんな時だからこそ、だ。俺だってあんたに助けられた。皆あんたに居場所を作って貰った。だったら今度は俺達が、社長が……親父がちゃんと帰って来れて、笑っていられる家を作らなきゃ」
初めて結城は、意識ある社長を親父と呼んだ。
「なに驚いた顔してんだよ、親父。俺は子供だろ。そしてあんたの子供は俺の他にもたくさんいるだろ。あんたが大黒柱なんだよ、だから早く元気になってくれ。親父は俺の上に立つ会長なんだから。俺、色々と聞かないといけねぇこともあるんだから、まずその声をもっと元気にしろよ」
「ん……」
社長の目尻から涙が零れる。
社長の手をぐっと握りしめたまま、結城は専務に言った。
「――ということで、社長やらせて下さい。まだまだ至らぬ点があるところが不安ですが、仲間に助けて貰おうと思います。
まずはひとつ。三上を守って向島を叩きつぶすこと。
それともうひとつ。忍月のお偉方を黙らせて、専務に敵対する勢力を押さえること。
それをひとまずの課題に掲げたい」