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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon

「結城さんが社長となることで、なんの責任を押しつけられるっすか?」

 木島くんの質問に専務は苦しげに答える。

「あることないことを、だ。そして負債をかけられ、向島に売却する正当な理由にするはずだ。月代さんをやっかんでいた連中が重役になっていたからな、俺の失脚も兼ねて上から圧をかけるだろう、結城に」

 結城は押し黙っていたが、やがて言った。

「俺が社長に承認されてもされなくても、向島に売られる結果は同じだというのなら、どうにかそれを回避したい。俺が重荷という意味じゃねぇんだ、会社を潰されたくない」

 それはあたしも同感だった。

「渉さん、結城さんは重役達と面談するんですか?」

 あたしの隣で腕組をした朱羽は、真摯な顔つきで向かい側に座る専務に尋ねた。

「勿論だ。忍月コーポ事実上トップの副社長、俺、取締役、常務、執行役ふたり、執行役員三人、監査に至るまで」

 結城が途方に暮れたような顔をしたが、すぐに戻って来た。

「渉さんも面談する立場なら、結城さんとどんな会話をしますか?」

「どんなって……、社長の資質があるのかを問うだろう」

「たとえば? 技術力は社長職には関係ないですよね?」

「シークレットムーンをどうしていきたいのか、抱負や展望とか……」

「でしたら、経営学と経済学をかじっていた方がいいのかもしれません。きっと重役達はそうした知恵がある方でしょうし、馬鹿にされないためにも」

「あ……副社長はそういう経営学とかうるさいな」

「でしたら、渉さん。すみませんが、結城さんに基本を教えて下さい」

「だよな。結城、やるか」

「え、いいですよ、俺ひとりで勉強しますから」

「結城さん、渉さんに聞いた方がいい。結城さんはひとの声に強いから、多分その方が覚えられる。渉さんは、経営学修士(MBA)持っているし、忍月の実情を教えてくれると思うから、その方が早い。渉さん、月曜日に議案を上げて、採決はいつ?」

「面談が開始して終了まで五日くらいはかかるだろうから、それからだな。早くて来週中には」

「だけど多分、その時は向島が動いているから、延び延びにされてしまう可能性がある。もっと前に確約できる採決が欲しい。向島の動きと副社長の動きを合わせるのは、危険すぎる。もっと強制権が欲しいな」
 
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