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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

 結婚、か。

 追い詰めたくはないけれど、結婚願望あるわけではないけれど、それでも相手が朱羽ならば、こうした風景を未来にみたいと思う。

 こうした幸せは、あたしの未来にあるのだろうか――。


「残念だけど、お兄ちゃんは出かけないといけないんだ」

「そうか、見ていたかったけど、また今度来る?」

「ああ。何回も来るから、見においで」

「やったぁぁぁぁ!!」

 運転席に乗った朱羽とほぼ同時に、あたしも助手席のドアを閉めた。

 朱羽は運転席につくと、なにやらパチパチとボタンを押す。

 全部英語で書かれているし、運転するのにあれだけ多くのボタンが必要だとは、教習所では習わなかった。だとすればなんだろう。

 IT会社に勤めながらも、最低限の機能だけでいいと思ってしまうあたしは、きっとこういう車は必要がない人種なのだろう。

「これフェラーリだよね?」

「うん、フェラーリ。ポルシェじゃない」

「だったらなんで……」

「お父さんがポルシェと言ったから。あの頃の子供は、親の言うことがすべてだからね。それにポルシェが好きだというのなら、夢を壊したくなかった」

 エンジンがかかりフェラーリが動き出すと、通行人がぎょっとした顔、好奇に満ちた顔で振り返る。

 そりゃあそうだ。こんな車が停車するような、高級感漂う建物はなく、あたしと朱羽は一体何者かと、好奇心に満ちた目で見られているようだ。


「あの子に優しいね、朱羽」

「なんだよ、しみじみと。惚れ直したとか言うつもりか?」

「……うん。きゅんとしちゃった」

 すると突然ブレーキを踏まれ、前傾になったあたしの額を朱羽は右手をあてて支えてくれた。

「頼む、運転中に心臓にくることは言わないで」

「だって聞いてきたから……」

「冗談にきまってるだろ!? 本気でそんなこと聞くかよ、俺、そこまでナルシストじゃないぞ」

「あはははは」
 
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