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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
「掴めそうな気がするだろう?」
手を伸ばしてグーとパーを繰り返すあたしに、朱羽が笑う。
「うん、見えるのにね。あんなに近くに宝石みたいに輝いて、ちゃんとあるように思えるのに」
ややしばらくして、朱羽がふっと笑ったような気配がした。
「もう、笑わないでよ、どうせ発想力は貧困ですよ!」
「いや、そうじゃなく……」
朱羽の目はあたしではなく、遠い星空を見つめていた。
綺麗な綺麗な、星の王子様……朱羽は星と欠けた月光に照らされて、神秘的な美しさを際立たせていた。
「俺も、そうだったから。近くに見えて捕まえられそうに思いながら手を伸ばしても届かなくて。きっと向こうは俺のことなんか気づいちゃいない。その他大勢の中のひとつで、どうでもいいもので。……俺は、いつか空から俺の手に落ちてきてくれることを願いつづけるだけで、どうやったら手に入るのかわからず、ただ無駄に時間が過ぎ去っていたから」
「……随分とロマンティストなんだね。そこまで朱羽もあの星欲しかった?」
すると朱羽が横を向いて手を伸ばし、あたしの腕を掴んだ。
「――やっと、捕まえられた。……あなたのことだよ」
レンズ越しの朱羽の目が、星の瞬き以上に綺麗に煌めき、あたしの胸の奥に熱を灯した。
「ずっと欲しかった。ずっと俺のものにしたかった。……やっと、空から落ちてきてくれた」
無数の星を凝縮したような朱羽の瞳に、吸い込まれていく。
とくとくと、急いたように息吹くのは朱羽への愛情。
……好き。
あたしこのひとが本当に好きで、たまらない。
どうしよう、切なくてたまらないよ。