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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 
 
「彼女以外の女性は通さないで下さいね。それ以外は申し訳ないですが、追い返して下さい」

「承りました。前回、免許証を見せて頂いております。確か、鹿沼様でいらっしゃいますね? 前回は失礼致しました。これからはお声をかけて頂ければ、すぐにお通し致しますので」

「は、はい……」

 コンシェルジュのあたしに向けられた微笑みが、「こんな庶民じみた女と似合うわけねーだろうが、すぐに捨てられるのがオチさ、バーカ」と言われているように思えて仕方がない。


 あたし達はコンシェルジュの奥を通り、エレベーターホールに向かった。

「コンシェルジュは大抵あのふたりだから、前みたいに苦労しないで来て」

「朱羽と一緒に居る時に来るから……」

「ひとりで来るの嫌?」

「そ、その……恥ずかしくて」

「恥ずかしい?」

「コンシェルジュの笑顔が。朱羽と不釣り合いだと嘲笑われているようで。きっと顔を合わせる度に、別れのカウントダウンが始まるんだわ」

 すると朱羽がぷっと吹き出した。

「なにそれ。凄い妄想だね」

「妄想じゃなく……」

「そんなことを思うコンシェルジュが仮に居たとしたら、ちゃんと替えるから安心して」

 エレベーターを、朱羽はカードキーで開いた。

「替えるって?」

「たとえば原因不明の事故とかさ」

「なっ!!」

「ははは。俺がそんなこと言わせないよ。そんなこと言う奴がいたら、下心がある奴だと思って」

「下心?」

「そう。あることないこと言って、俺と陽菜を引き裂こうとして、陽菜を手に入れようとしている奴。そういうのは絶対耳を貸すなよ?」

「そっちの方が妄想じゃない?」

「こっちの方が現実的だよ」

 むくれる朱羽に笑ってしまった。


 
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